乙川優三郎

生きる 脊梁山脈    

生きる 2006年4月20日(木)
 地方藩士の武士道を描いた作品集。
 「生きる」:石田又右衛門は、父の代から北国の藩に仕え、新参ながら藩主に重用されてきた。江戸の藩主が病に臥して容態が思わしくないある日、家老に呼び出されて出向くと、追腹を禁じられ誓紙を書くことになる。藩主が亡くなると娘の夫を始め殉死する者が相次ぎ、周囲も当然又右衛門も腹を切るものと見ているが、誓紙の手前それもならない。娘に義絶され、息子が殉死し、妻もなくなり、侮蔑の視線の中で孤独に生きていくことになる。
 「安穏河原」:双枝の父は、農民を苦しめる藩の方針に反対して退身して江戸へ出るが、満足な仕事もなく生活は苦しくなる。母が肝臓を患い、ついに双枝は身売りされる。父は仕事で知り合った若い男に金をやって双枝のもとに通わせて、様子を聞くが、六年の年季が明けても自由になれないことを知り、金策を始める。
 「早梅記」:高村喜蔵は若い時から出世を目指して仕え、家禄十石から百石を取るまでになるが、引退すると妻はなくなり、毎朝散歩しながら思い出すのは、結婚前の奉公人で愛するようになった足軽の娘のことだった。
 一言で言えば、武士は食わねど高楊枝なのだが、これでもかと試練が続き、あまりにも身も蓋もない。 最後の最後に一筋の淡い光が差すのが救いで、ジーンと来るのだが。直木賞受賞作。

脊梁山脈 2016年7月2日(土)
 上海から復員した矢田部信幸は、列車で腹痛に見舞われて同じ復員兵の小椋康造の世話になった。下車した上野でひょんなことから、バラックのバーをやっている佳江という若い女と知り合う。福島の実家に帰った矢田部は、父の遺産の株券と伯父の会社の遺産で生活の不安から解放され、世話になった小椋に会いに行こうと思う。しかし小椋は見つからず、捜す過程で山で暮らし木を切ってろくろを回して木工品を作る木地師の存在を知り、木地師の世界を研究しようと思うようになる。そして旅を続ける中、木地師の娘多喜子と知り合う。
 金に不自由なく、趣味に打ち込んで、二人の女の間を行ったり来たりと、いい身分だなということで一気に興味が薄れてしまった。おまけに、嫌いな古代史の解釈。一度途中でやめて、その間ミステリーを読んでいた。大佛次郎賞受賞作。