折原一 |
倒錯の死角 201号室の女 | 冤罪者 | 倒錯の帰結 | 叔母殺人事件−偽りの館 |
暗闇の教室 | クラスルーム | 天井裏の散歩者 幸福荘殺人日記@ | 誘拐者 |
覆面作家 | 赤い森 | 異人たちの館 | 鬼面村の殺人 |
棒の手紙 | 死仮面 |
倒錯の死角 201号室の女 2003年11月3日(月) |
折原一の作品は3作目だが、どの作品も暗い。特に、「倒錯のロンド」とこの作品は、作者を思わせるような(?)ネクラで精神異常と思しき主人公が妄想を手記に書いているような雰囲気で、陰湿極まりない。叙述トリックと言うのだそうだが、犯人(?)、被害者(?)の日記という形で進むので、事件の進行は明らかになっているのだが、その記述自体にトリックがあるのだ。日記の○○をずらすぐらい平気でやるんだからと思って読んでいたら、やっぱりそうだった。(本当にそうだったので、ここには書けない。)今回は○○のトリックに加えて、登場人物自体にトリックを施している。そこまでは想像できなかった。ひねりにひねってあるので、読み終わった後もすっきりしない。それでも、面白いことは面白い。創元推理文庫でも出ているが、新しい講談社文庫版のほうを読んだが、最後の結末が袋とじになっている。では、創元推理文庫版はどうなのかと気になってきた。 |
冤罪者 2005年11月5日(土) |
ノンフィクション作家五十嵐友也は、たまたま近所で婦女暴行焼殺事件に遭遇し、雑誌社の編集者水沢舞と協力して事件を取材することになる。連続する事件を取材するうちお互い愛し合うようになり婚約を交わすが、あろうことかその舞が連続殺人犯の犠牲になってしまう。逮捕された容疑者河原輝男を五十嵐は記事で糾弾し、裁判で無期懲役を勝ち取る。ところが十年後、その河原から冤罪を訴える手紙が届けられる。手紙を読み実際に面会して真実味を感じた五十嵐の記事で、当時の目撃者が現れ証拠も見つかり、控訴審で河原は無罪となる。 その後、河原をめぐって、五十嵐と妻の久美子、被害者の家族の瀬戸田光弘と樋口佳代、舞の妹みどり、かつて河原を取り調べた元刑事の高山、河原と獄中結婚した郁江、 河原の支援グループの笹岡、そして目撃者の村越、間違い電話がもとで五十嵐がメールを交わすようになった謎の女性小谷ミカ、といった人物が 追いかけているのか追われているのかわからなくなる折原一らしい複雑な追跡ゲームを繰り広げる。 この作品のタイトルは「冤罪者」だが副題として「STALKERS」というタイトルが付いている。こちらがミステリーの主軸を表していると言えるだろう。 |
倒錯の帰結 2006年5月18日(木) |
「首吊り島」と「監禁者」という2つのミステリーを合本して、前からも後ろからも読めるようになっており、中央に袋とじの「倒錯の帰結」があり、そこで初めて2つの作品がリンクするというおもしろい作りになっている。 「首吊り島」は、横溝正史の「獄門島」をもじったような連続密室殺人事件。推理作家山本安雄は同じアパートの清水真弓に伴われて、首吊り島と呼ばれる島の旧家新見家を訪れる。すると、死を暗示するような島に伝わるわらべ歌の手紙が届き、予告どおり密室殺人が連続して起こる。 「監禁者」は、スティーブン・キングの「ミザリー」のような作品。山本安雄は自分の住むアパートの別の部屋で新見という女に監禁され、密室をテーマとした作品を書くよう強要され、暴行を受ける。 山本安雄は「倒錯のロンド」、清水真弓は「倒錯の死角」の登場人物であり、これらを読んでいるとなるほどねと納得するのだが、例によって、フィクションの中とはいえ、どこまでが事実なのか妄想なのかよくわからない。 |
叔母殺人事件−偽りの館 2008年7月25日( 金) |
名倉智樹は、妾の身から衣料メーカーを築き上げた叔母の清瀬富子に、煉瓦造りの洋館へ呼ばれた。跡継ぎにふさわしいかどうかを判断するためということだった。館には女中の春とその娘で料理女の美咲という、二人の女性がいた。思慮深
さに欠ける智樹は、叔母から日々浴びせさせられる皮肉に激昂し、殺人計画を練っていく。犯罪ノンフィクションで身を立てようとしている《私》は、事件後の洋館に住んで
、智樹の日記を探して二重人格として刑を免れて入院している俊樹を告発しようとしている。《私》はたまたま知り合った長沼絹代という若い女性と、《私》を俊樹と勘違いして押しかけてきた俊樹の母親をハウスメードとして雇う。 事件の真相や人物関係に謎はあるが、予想したほど複雑なトリックはなかった。「私は缶ビールとつまみを取り出して、…体にアルコールが入っていくにつれ」という部分と「ビールを頼んだ。…酒を飲まなくなって久しいが、何の違和感もない」という部分に矛盾があるので、何かトリックがあるのではと思ったが、何もなかった。書体の違う部分は俊樹の日記、それ以外は現在進行部分。プロローグとエピローグに仕掛けがあるが、それほど重要なことではない。相変わらず妄想狂ばかりで、まあ、おもしろかった。 |
暗闇の教室 2013年1月13日(日) |
夏の大渇水でダムが干上がって、沈んでいた緑山中学校の校舎が現れた。中学生の私は、遊び仲間の弘明、満男、ユースケを誘ってダムへ行く。台風が近づく中、4人は教室で肝試しの百物語を始める。同じ日、担任の高倉千春が、生徒の厚子、ゆきえを連れて療養所に真知子を見舞いに行っていたが、帰り道に迷って中学校へたどり着いた。緑山では若い女性を狙う殺人鬼浦田清が車を走らせ、過激派のリーダー那珂川映子が逃走していた。そして、かつての校長で暴力教師の片岡雄三郎も学校を訪れていた。嵐の中、浦田清は車の事故で亡くなり、私たちは救出された。二十年後、再びダムが干上がり、当時の記憶を失った高倉がかつての生徒たちを中学校に集めて話を聞こうとしていた。しかし、そこには二十年前の復讐劇が隠されていた。 ミステリーの根幹は、誰の誰に関する復讐なのかということだが、「私」の正体とか、療養所での強姦とか、救出された人数が一人多いとか、細かい引っかけがいろいろあって紛らわしい。ただ、真犯人の正体は、誰が読んでもわかるはずがないと思う。 |
クラスルーム 2013年8月25日(日) |
栗橋北中3年B組の学級委員長だった青野ミチル、副委員長だった秋葉一平、佐久間百合、ボスグループの一員だった寺之内裕一、いじめられていた熊谷秀和にクラス会の案内が届いた。すでに廃校となっている教室で八月八日の午後九時にというもので、幹事の長谷川達彦という名に誰も覚えがなかった。十年前、クラスは暴力教師の桜木慎二に支配されていて、同じ八月八日の午後九時、桜木をやっつけるため肝試しを開いていた。しかし、その時何が起こったのか、記憶があいまいなままだった。クラス会の夜、復讐に燃える桜木、なぜか招待されなかったボスの松尾もやってきた。そしてそれを監視する謎の人物がいた。 語り手が入れ替わっているとか、時間がずれているとか気をつけて読んだが、あっと驚くような仕掛けは特になかった。最後まで読んで、最初のシーンの意味が分かるという程度。監視する人物の正体も意外だが、トリックのないミステリーという感じ。それでも、夏休みに似合いのおもしろい作品だった。 |
天井裏の散歩者 幸福荘殺人日記@ 2014年5月5日(月) |
東京の練馬区のはずれにある二階建てモルタル造りのアパート、幸福荘。そこは、ミステリーの大家、小宮山泰三が住んで仕事場としていることで、その名を慕って多くの作家志望の若者たちが押し寄せた。運よく入居できて、洋間のワープロの前に陣取ると、1枚のフロッピーが差しこんであって、<文書1>から<文書6>まで、小説のようなものが入っていた。そこには、アイドルとしても通用するほど可愛い、売出し中の人気少女小説作家、南野はるかをめぐって、浴室の天井の蓋から天井裏に入り、のぞきをしたり、果ては密室殺人に及ぶが、はるかの計略にはまって失敗するというストーリーが書かれていた。 読んでいくうちに、書かれたストーリーが実は登場人物の一人の創作であることがわかるが、そうなるとどこまでが小説の中の事実で、どこまでが小説の中の創作なのか判然としなくなってくる。ミステリーのパロディーという感じでおもしろかった。 |
誘拐者 2014年9月6日(土) |
(過去)、宇都宮の産婦人科病院で、堀江幸男の生後四日目の女の赤ちゃんが女に連れ去られた。妻のチヨは、あすかと名付けた子を探して家を出た。そして二ヵ月後、犯人の手紙とともにあすかが玄関に戻されていた。妻の友人榊原瞳が母親となって育ててくれたが、あすかが小学に入学した年、突然姿を消した。(現在)、写真の仕事をしている布施新也に写真週刊誌に載った芸能人のスクープ写真に写っていた男性について大島敏子という女性から問い合わせの手紙があった。布施は、アパートのある高円寺で偶然写真を男性を見かけ、後をつけてアパートに着くと、月村道夫/小田切葉子という表札が出ていた。後日、アパートを出る月村を見て後とつけると、宇都宮で降りて、入っていった団地の玄関には堀江幸男という表札があった。大島敏子はバラバラ死体で発見され、入院した月村を長野から訪ねてきた雨宮伸吾も殺された。 合間に「あすか」という名前の女の子の誘拐事件や、子供を産みたい女性の異様な行動が描かれて錯綜するが、そのうち背景が見えてくる。しかしながら、いつも の大どんでん返し。そして珍しくハッピーエンドだ。おもしろかった。 |
覆面作家 2015年5月9日(土) |
西田操は交通事故で顔に大火傷を負い両足を複雑骨折したが、妻の勧めで書いた推理小説が新人賞を受賞し、奥多摩に別荘を購入したが、二作目がかけず、「七年たったら、もどってくる」と書き置きを残し失踪した。七年後、西田は奥多摩の別荘に戻り、小説を書き始める。七年前のことを書いた『覆面作家』という作品だ。だが、ワープロに脅迫文が打ち込まれて、そのうち書いている作品と同じことが現実に起こるようになる。 人物が入れ替わっているとか、現在と過去が入れ替わっているとか、既に出版された本を写して書いていると思い込んでいたりとか、いつものパターンだと思いながら読み進めていくが、ますますわからなくなってくる。 わかってみれば確かにいつものパターンなのだが、幻惑されてしまった。 |
赤い森 2016年5月7日(土) |
民宿の主人は、客が来るたび樹海の山荘の話をする。作家と画家の妻と幼い双子の娘が住んでいたが、創作に悩んだ作家が家族を殺して樹海へ逃げたという伝説があり、その真相を確かめようと樹海へ入って亡くなった青年の『遭難記』という手記が残されていた。民宿を訪れていた学生グループの何人かは『遭難記』を手に樹海に入っていき、恐怖の体験をする。一方、その作家が犯した殺人事件の被害者の家族である教授も、学生グループを引き連れて樹海へ入っていく。 第一部が提示編、第二部が展開編、第三部が解決編という感じだろうか。いつも通り、同じエピソードが反復されて、そのため訳がわからなくなるのだが、素直に読んで納得したほうがいいようだ。 |
異人たちの館 2018年5月5日(土) |
純文学とミステリーの新人賞を受賞しながら芽の出ない作家島崎潤一は、出版社の依頼で、宝石店の店主小松原妙子の息子で、8歳で児童文学賞を受賞し天才と呼ばれた小松原淳の伝記を依頼される。小松原淳は富士の樹海で行方不明になり、白骨死体と運転免許証が見つかっていた。島崎が小松原邸で資料を読み、取材に出ると、いつも先回りして取材している中年女性がいた。そして、小松原家では妙子の夫譲二が行方不明になっていた。 母親の息子への盲目的な愛がキーになっているが、問題はそれが誰のことかということ。作家志望が書く作品内作品、というのもいつも通り。1993年の作品だが、2018年本屋大賞発掘部門「超発掘本」に選ばれている。 |
鬼面村の殺人 2018年12月31日(月) |
埼玉県白岡署の黒星警部は、単純な事件を密室殺人に仕立てたりして、数々の事件を迷宮入りさせてきた。叔母危篤の知らせに飛騨高山に駆けつけたが、間違いだったので休暇をとって白川郷へ向かうことにした。一方、フリーライターの葉山虹子は白川郷の奥にある鬼面村での国際芸術週間という催しのため推理作家という名目で訪れようとしていた。たまたまバスで隣り合わせた二人は、合掌造りの消失マジックを目撃し、殺人事件に巻き込まれる。 ずっこけミステリーだが、最後のどんでん返しのどんでん返しはおもしろかった。 |
棒の手紙 2020年5月9日(土) |
水原千絵は、「棒の手紙」という不幸の手紙のような郵便物を受け取った。妹、百絵の筆跡の文字だった。千絵は、妹と近所の「困ったさん」、高校時代の体育教師に棒の手紙を送った。ルポライターの高畑良介は、友人の喜多見から棒の手紙を見せられた。そして、ここ一週間で金属バットで殴られる殺人事件が三件起こっていると知らされる。後日喜多見を訪れると彼も殺されていた。パソコンのメールアドレスから、水原千絵と野島あずさに注目するが、野島あずさも殴られて重体となっていた。 棒の手紙が何度も行ったり来たりするのでややこしくなるが、いつものように複数の犯行が重なっていたり、人物の正体が実は、だったりする。最後もいまいちよくわからないが。 |
死仮面 2020年8月31日(月) |
雅代の夫が突然亡くなった。夫と言っても、創作教室で知り合って週末一緒に過ごすだけのパートナーだったが、亡くなって初めて義手だったことを知り、勤務先も名前もでたらめだったことが分かった。手掛かりを求めて夫が残した創作ノートをワープロに写し取る。小説らしきものの主人公は夫の息子らしい。頭文字の地名や駅名から実際の場所を推測し、訪れるのだが、なぜかストーカーと化した前夫が現れる。何とか逃れて、ついに小説の舞台と思われる館にたどり着いた…。小説の主人公である淳平は、父親の『雅代の物語』と書かれたノートを見つけた…。 読んでいるうちにどれが地の文でどれが作中作なのかわからなくなってくる。結局、それだけが狙いの作品だった。 |