大山誠一郎

密室蒐集家      

密室蒐集家 2024年6月26日(水)
 「柳の園 一九三七年」:夜、京都寺町通の女学校に忘れ物を取りに来た千鶴は、灯りが漏れている音楽教室を覗いて、ピアノを弾いていた音楽教師が入ってきた誰かに拳銃で撃たれて倒れるところを目撃した。宿直室に先生呼びに行き一緒に戻ると、扉には鍵がかかっていた。密室の謎が解けない中、『密室蒐集家』と名乗る男が訪ねてきた。
 「少年と少女の密室 一九五三年」:闇煙草の取引を刑事が見張っている中、隣家に入っていった高校生の男女が殺されていた。
 「死者はなぜ落ちる 一九六五年」:マンションの窓の外を女が落下して死んだ。上の部屋はドアにも窓にも鍵がかかっていた。
 「理由ありの密室 一九八五年」:殺害を通報する電話があり、警官が向かうと男が倒れていてドアにも窓にも鍵がかかっていた。ワープロのプリンタの紙送りローラに凧糸が巻き付いていて、密室の謎は容易に解けたのだが。
 「佳也子の屋根に雪ふりつむ 二〇〇一年」:自殺を図った女性を救ってくれた女医が、目が覚めると殺されていて、雪の降った後外には女医の足跡しか残っていなかった。
 ミステリーマニアの女学生千鶴と叔父の刑事圭介に密室蒐集家で、シリーズものかと思ったら、その後時代が下っていき、場所も登場人物も違う。唯一共通しているのが、いつの時代も変わらず三十歳前後の美男子、密室蒐集家。無理やりな感じのする犯行を、話を聞いただけで瞬時に解決していつの間にか消える、というところが無理やりだがおもしろい。「柳の園」の女学生が「理由ありの密室」でおばあさんになって再登場するのもおもしろい。本格ミステリ大賞受賞作。