小野不由美

東亰異聞 魔性の子 黒祠の島 残穢
営繕かるかや怪異譚      

東亰異聞 2003年10月17日(金)
 「東京」の「京」の字に「口」に1本横棒が入って「とうけい」と読ませる。「けい、きょう、みやこ」と読むので、「京」と同じ意味だが、あえて「東亰」と書くことで異次元の雰囲気をかもし出している。
 誕生から29年たった帝都・東亰では、火炎魔人、闇御前といった殺人鬼が跋扈しだす。新聞記者・平河は、浅草の大道芸師の間で便利屋を勤めている万造とともに事件を追う中、華族の鷹司家に行き着く。ミステリーとして読めば、この万造のほうが名探偵なのだが、事件を解決したその後で、歴史が現実の「東京」とは異なる方向へ動き出す。万造が別の意味で、重要な役割を果たしていたのだ。この小説は、「東亰」を舞台にした魑魅魍魎や呪術の世界が描かれた伝奇小説の中に、妖怪ミステリーが含まれていて、二つが同時進行するという構造を持っている。作者は、京大推理推理小説研究会出身だそうだ。おもしろい小説だった。

魔性の子 2007年5月28日(月)
 広瀬は教育実習のため母校の名門私立高校を訪れ、かつて世話になり影響を受けた担当教官の後藤と再会する。後藤のクラスで、広瀬はどこか雰囲気の違う一人の生徒に視線を止めた。高里というその生徒は小学生の頃一年ほど神隠しにあっていて、彼に絡むと祟られると噂されていた。そして、知らずにからかったりいじめたりした生徒が事故にあってしまう。幼い頃に臨死体験を経験し、故国喪失者のような疎外感を持っていた広瀬は、神隠しにあった世界を思い出そうとする高里に共感を覚え、保護しようとする。高里の意図しない祟りが被害と規模を拡大してエスカレートしていき、町では「たいきを探している。き、を知らない?」と問いかける若い女性が出没していた。
 高里が神隠しにあっていた世界とは何なのか、祟りをもたらしているものの正体はなんなのか、たいきを捜し歩く女、そしてたいきとはなんなのか。そんなオカルト・ミステリーと、帰るべき世界を求める広瀬の心の物語が並行して 展開していく。
 「人は誰も何かしら異端だ。身体の欠けた者、心の欠けた者、そんなふうに誰もが異端だ。異端者は郷里の夢を見る。虚しい愚かな、けれども甘い夢だ。」

黒祠の島 2009年1月15日(木)
 ノンフィクション作家葛木志保が、部屋の鍵を預けて帰省したまま、約束の日まで戻らなかった。仕事仲間の式部は、友人を訪ね歩いて「夜叉島」という名前に行き当たった。港で彼女がもう一人の女性と一緒に来たことを確認して島へ渡るが、島の人々は排他的で誰も志保の存在を認めなかった。島は神領家が支配しており、島の神社では馬頭夜叉を祀っていて、神領家にはそのお守りをする守護さんという娘がいるということだった。島に派遣されている医師の泰田は最初口をつぐんでいたが、志保は惨殺されたと明かした。調べていくと、かつて志保の父も惨殺されていた。そして志保は、同じ頃母を亡くした同級生の永崎麻里とともに島を出ていたのだった。
 閉ざされた島、禍々しい信仰、姿を消した女性、謎の守護さん、過去と現在で連鎖する事件、そして最後にはどんでん返しも。なかなかおもしろかった。

残穢 2015年8月9日(月)
 ホラー作家のもとに 、畳の表面を何かが擦るような音がして、着物の帯のようなものが見えたという手紙が届いた。資料を整理していると、同じマンションの別の部屋の人から同じような手紙が届いていた。話をして一緒に調べると、そのマンションには人がいつかない部屋があった。さらに隣の住宅団地にも人のいつかない家があった。出ていった人々から聞き込みし、マンションや団地が建つ前を調べるうち、土地に残り人に伝染する穢れの 存在が見えてきた。
 過去にさかのぼって因縁を調べていくので、メモを取りながら読めばわかりやすかったかもしれない。ドキュメンタリー風のホラー小説。そのせいか、全然怖さは感じなかった。山本周五郎賞受賞作。

営繕かるかや怪異譚 2018年9月5日(水)
 地方の古い城下町だった街の町屋。事情があって移り住んできた人たちに、不思議な出来事が起こる。奥座敷の襖が開いて中に人影が見える、屋根裏に誰かがいる、入り組んだ通りに鈴を鳴らす喪服の女性が立っている、家の中に見知らぬ老人がいる、夫が手を入れ始めた庭で植物が枯れていく、書庫の車の調子が悪くて中に子供の姿見える。大工や造園屋の紹介で「営繕かるかや」という青年が現れて、家に手を入れる。
 ホラーだ。映画化された「残穢」は別に怖いとは思わなかったが、これは怖かった。「奥庭より」、「屋根裏に」、「雨の鈴」、「異形のひと」、「潮満ちの井戸」、「檻の外」の6編。「奥庭より」は不気味だったし、「雨の鈴」は死につながるので特に怖かった。