小田雅久仁

残月記      

残月記 2025年2月13日(木)
 「そして月がふりかえる」:何時ものように高志は家族とファミリーレストランへ行った。トイレの小窓から見えた月に違和感を覚え、入ってきた男と入れ違いに出ると、誰もが静止して窓の外の月を見ていて、外の人や車も止まっていた。席に戻ってしばらくすると周りが動き始めたが、妻から「どなたですか?」と言われ、そこにトイレで見かけた男が戻ってきた。そして見知らぬ女が「そこで何してんの?」と声をかけてきた。
 「月景石」:叔母の桂子さんは石の蒐集をしていて、その中に模様が月から見た地球のように見える”月景石”があった。桂子さんは「この石を枕の下に入れて眠ると、月に行けるんだよ」と言っていた。実家に帰った時月景石を取り出し、ある夜枕の下に置いて寝た。わたしは、月の裏側の住民イシダキの女になっていた。
 「残月記」:救国党による一党独裁政権下の二〇四八年、冬芽は月昂を発症し、感染を防ぐため保護施設に収容された。満月の頃異様に躁状態になり、新月の頃昏冥死を迎え、五年後には六人に一人しか生き残らないと言われる。剣道有段者の冬芽は、剣闘士になるようもちかけられる。古代ローマのグラディエーターのように見世物として闘い、抗昏冥薬を投与を受けられ、勝利すれば勲婦を指名できる。冬芽は、最初の保護施設で出会った、月昂で亡くなった母の面影のある瑠香を選んだ。
 月の裏側が共通キーになっているSFファンタジーでパラレルワールド物でもある。 村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」のような雰囲気だ。吉川英治文学新人賞、日本SF大賞受賞作。