沼田真佑

影裏      

影裏 2020年7月15日(水)
 わたしは親会社から岩手の会社に異動してきた。会社で知り合った日浅という男と釣りや酒でよく付き合うようになった。しかし、日浅はわたしに何も言わずいつの間にか会社を辞めていた。突然アパートを訪ねてきた日浅は、互助会のセールスをしていて、わたしも一口加入した。その後つまらないことで喧嘩別れしたが、震災で行方不明になっていると聞き、知っている日浅とは別の顔を知ることになる。
 芥川賞受賞当時、東日本大震災を扱った作品ということで話題になったは、これはストーリーを進めるためのきっかけに利用しているだけで、本筋にはあまり関係ない。「別れた和哉」という言葉にエッと思うのだが、これもただ出てくるだけ。親しかった人間が本当はどういう人間だったのか、というのもよくあるテーマだとは思う。
 他に、独身の中年男の心情を描いた「廃屋の眺め」、やはり中年のLGBTの女性を描いた「陶片」。こちらが小説としてはおもしろかった。古風な作風で、こういうのが好きな審査員に気に入られたのだろうと思う。