貫井徳郎

慟哭 乱反射 後悔と真実の色 ドミノ倒し

慟哭 2003年12月7日 (日)
 まったく知らない作家だったが、書店で平積みしてあり、帯に北村薫の絶賛が印刷してあったので買ってみた。
 連続幼女誘拐殺人事件が発生し、警視庁の捜査一課長佐伯が捜査本部の指揮を取ることになる。佐伯は東大出のキャリア、元法務大臣の隠し子で、警察庁長官の娘婿でもある。しかし妻子とは別居中で、娘は佐伯におびえていると言う。現場の刑事たちの聞き込み捜査が始まるが、状況は遅々して進展しない。佐伯の周辺には七光りという偏見から軋轢もあり、さらに愛人の存在をマスコミに暴かれたりもする。
 この辺は警察小説という雰囲気だが、実は病院を退院したばかりの一人暮らしの男が宗教団体にはまっていくストーリーが並行しながら展開していく。この2つのストーリーがどう関連していくのか、最後にどのように一つになるのか。これが本格ミステリーだとしたら、きっと折原一的な仕掛けがあるに違いない。だとしたらこの男の正体は・・・と思いながら読んでいたら、やはりそうだった。しかし、最後のほうで2つのストーリーがシンクロし始めて、なんだ違うのかと思わせる作りは見事である。
 それにしても、後味の悪い作品である。

乱反射 2012年1月10日 (火)
 強風の日、街路樹が倒れてベビーカーの二歳の子供が亡くなった。倒れた街路樹は街路樹診断されているはずだったが、道路拡幅に伴う伐採に反対する主婦グループに妨害されて遅れていて、診断の担当者は極度の潔癖症を患っていて、その木の根元に犬の糞が積み重なっていて近づくことができなかった。市の担当者も片付けを怠っていた。その犬の飼い主は腰痛で腰を曲げて糞を片付けることができなかった。救急車は渋滞に巻き込まれ、すぐ近くの病院には受け入れを断られた。通りに面した家の娘は運転が苦手で、新しく買った大型車を車庫入れできず、パニック状態になって車を道に放置してしまっていた。虚弱体質の学生が空いている夜間の救急受付を利用するようになり、多くの学生がやってくるようになって救急外来が混雑していたし、担当の医者は面倒を避けるアルバイト医師だった。幼児の死は、小さな罪の連鎖による殺人だった。父親の新聞記者は彼らを訪ねて話を聞くのだが…。
 こんなことが起こりうるという連鎖の組み立てはユニークだし、それぞれの人物の描写もうまい。ただ、何かどんでん返しがあるかと思ったが何もなかった。日本推理作家協会賞受賞作。

後悔と真実の色 2013年1月20日 (日)
 若い女性が惨殺される事件があり、牛込署に特別捜査本部が置かれた。警視庁捜査一課九係りの刑事西條輝司は、第一発見者である交番勤務の大崎と組んで、被害者のデータ収集にあたることになった。西條は不満だったが、大崎は自分のことを頭が切れると言うのだった。捜査本部には、昔から西條を嫌っている特別機動捜査隊の綿引も加わっていた。同じような事件があり、被害者が若い女性で指を切り取られているという共通性から、連続殺人事件とされた。やがて、《指蒐集家》を名乗る犯人が、ネットで犯行予告をするようになった。しかし、西條が捜査していた関係先の情報が新聞に掲載され、西條は謹慎処分を受ける。
 警察小説というと、組織間対立、組織内対立、上下対立と、暗くて不快な感じだが、この作品ではそれぞれの刑事の背景が描かれていて、後半は思いもかけない展開で、おもしろかった。 最初にこいつが怪しいと思った人物がやはり犯人だった。山本周五郎受賞作。

ドミノ倒し 2017年1月19日 (木)
 亡くなった恋人の故郷、月影市で探偵事務所を開いた私のところへ、その妹が仕事の依頼にやってきた。元彼が殺人事件の容疑者にされているので、無実を証明してほしいとのことだった。月影の警察署の署長はエリートの腰掛署長で、私の幼馴染だ。その署長が言うには、月影では未解決の殺人事件が多く、×のマークが残されているという共通性もあるのだそうだ。私は、元彼と友人、地元の青年団、老人グループ、被害者の家族を調査するが、それぞれの事件に関連性が見えてくるが、刑事が余計なことをするなと脅してきた。
 読んでいるうちに何となくそんなことじゃないかと思っていたら、やはりそうだった。思ったより単純な結末で、ホラーというよりはユーモアミステリーかもしれない。