額賀澪

ヒトリコ 屋上のウインドノーツ    

ヒトリコ 2018年3月17日(土)
 三連休が終わって学校へ行くと、水槽の金魚が死んでいた。その金魚が、担任のお気に入りだった、転校した冬希が残したもので、生き物係の日都子は担任に殴られ、親友やクラスの仲間にもいじめられ、「ヒトリコ」として生きていくことになった。中学に上がり、部活を避けるため、偏屈なおばあさんにピアノを習うようになる。日都子を好きだった明仁は、そんな日都子に関わろうとするが冷たく突き放されるだけだった。高校に入ると、モンスターペアレントの母親から逃れた冬希が帰ってきた。冬希は、変わってしまった日都子や周りの様子に、日都子に声をかけたり、明仁に事情を聞いたりする。
 日都子は、金魚が死ななかったら私は嫌な奴になってたと思う、虐げる側に回って嘲笑って傷つけて、だからヒトリコでいいと言う。それでも、後戻りできない一歩を踏み出そうとし、自分の足跡にさようならと両手を振る時が来る。久し振りにいい感じになれた。小学館文庫小説賞受賞作。

屋上のウインドノーツ 2019年1月26日(土)
 幼稚園でいつも一人で遊んでいる給前志音に声をかけてきたのは、青山瑠璃という子だった。それから、小学校、一緒に入った私立中学でも、「なんでもできる瑠璃ちゃん」がいつも志音を守ってくれた。志音が初めて父とあったのは、中学二年の二月だった。もう一度音楽を始めて、バンドでドラムをたたいて、テレビに出ることになったと話していたが、その年の十二月に過労で亡くなった。高校の屋上でホルンの練習をしていた日向寺大志は、ドラムとも違う軽快なリズムを聞いた。女の子がイヤホンを聴きながら、バチで給水タンクや柱をたたいていた。吹奏楽部の部長を押しつけられて、少人数で打楽器担当一人だけの部で、ドラムセットを使おうと思っていた大志は、「見つけた」を思った。父の遺品のドラムで一人練習し、瑠璃と別れて県立高校へ入った志音だった。大志に誘われて初めて一緒に演奏して、楽しいと思った志音は入部すること決意する。「一緒に東日本大会へ行こう」と言った大志だったが、その東日本大会にトラウマを抱えていた。そんな時、テレビの番組に出ていた中年のバンドがいて、いつも見ていたのだった。
 高校の吹奏楽部を描いた、青春ドラマ。久し振りにいい感じで読めた。松本清張賞受賞作。 ミステリーでも時代小説でもなく、エンターテインメント作品が対象に変わったのだそうだ。