野沢尚

破線のマリス 深紅    

破線のマリス 2004年10月4日(月)
 ニュースステーションを思わせるような人気報道番組の映像レポートコーナーの映像編集を担当している遠藤瑤子は、仕事に復帰したい思いから子供を捨てて離婚し、その刺激的な映像感覚で視聴率を上げている。そんな彼女の元に、郵政省の不正と殺人事件への関与を示唆するような内部告発ビデオがもたらされる。その映像を放送した結果失脚した官僚に付きまとわれ、さらにその映像がやらせだったことも明らかになる。
 事件の発端となった殺人事件についても捏造ビデオについても何も明らかにはならないので、ミステリーというよりはサスペンスとして読むべきかもしれない。実際、主人公も追い込まれて、作品の外側から見ると何の解決もない方向へさまよっていくだけだから。人気シナリオライターによるテレビ業界の内部告発作品という感じだが、昔同じような報道番組の企画に少しだけ携わったこともあるので懐かしい思いもした。 江戸川乱歩賞受賞作。先だって亡くなられたのは残念なことだ。

深紅 2005年9月13日(火)
 両親と2人の弟を惨殺された少女泰子。小学6年の修学旅行の夜、タクシーに乗せられて東京の病院で家族の白いシーツに隠された姿を見るまでの4時間が、その後も発作として現れる。そして、自分だけ生きていてごめんと思う。全ての葛藤を心の中の隠れ家に隠して女子大生になった少女は、犯人の同い年の娘の存在を知り、身元を隠したまま その女性未歩に近づいていく。
 緊迫した導入部、被害者の少女の心の闇と、身についてしまった冷淡な心理。加害者の娘とどう関わっていくつもりなのか。はらはらしながら読んでしまい、最後はそこまで行ってはいけないと思ったり。さすがにうまい。吉川英治文学新人賞受賞作。今度映画が公開される。