野呂邦暢 |
草のつるぎ |
草のつるぎ 2005年4月23日(土) |
昭和49年の芥川賞受賞作「草のつるぎ」を含む作品集。「狙撃手」と「草のつるぎ」は自衛隊に入隊していた時の体験に基づく作品。「一滴の夏」は自衛隊除隊後の無為の日々を描いた中篇。「白桃」は戦後の困窮した生活、父親を子供の視点からを描いたもの。 自衛隊に入隊した事情は、「草のつるぎ」の中で「自分自身の全てがイヤだ。ぼくは別人に変わりたい。ぼく以外の他人になりたい。ぼくがぼくでなければどんな人間でも構わない。無色透明な人間になりたい。」と語られている。また「一滴の夏」では、「ぼくが自分自身に近づくのは書くことにおいてのみである。・・・虚無と沈黙の領域に属する日月星辰も、表現の世界では鉛筆の削り屑ほどの価値しか持たない。」と、毎日街をさまよい歩くだけの生活の中で、表現を志向していく意志が明かされている。 巻末の年表を読むと、27歳で処女作を投稿し、29歳で芥川賞候補となり、37歳で芥川賞を受賞し、42歳で急逝している。文学青年という言葉を思い出してしまった。 |