乗代雄介

本物の読書家      

本物の読書家 2024年4月6日(土)
 「本物の読書家」:わたしは、大叔父を高萩の老人ホームへ送り届けるため一緒に列車に乗った。三万円のお金をもらったのと、彼には川端康成からの手紙を持っているらしいという噂があっったので。隣に座った身なりのいい男が大阪弁で話しかけてきて、話の成り行きで作家の誕生日を次々と答えた。男は「わしは単なる読書家、あんさんと同じ穴の貉でんがな」というのだった。反発を覚えながら話しているうちに、大叔父が自らの秘密を語り出した…。
 「未熟な共感者」:登録できる唯一残った文学のゼミを選んで出席すると、男子一人、女子二人だけで、間村季那という美しい学生と話すのが楽しみになった。よくトイレに中座する先生はその後失踪し、私に講義録のノートが送られてきた…。ストーリーは一応あるが、内容はサリンジャーを中心とする難解な文学論がほとんど。
 「本物の読書家」はミステリー仕立てのストーリーはあるし、「未熟な共感者」もストーリー的にはミステリーっぽいところもあるが、ほとんど文学論といっていいもの。最近読んだ室井光弘や千葉雅也の系列のような感じ。野間文芸新人賞受賞作。