西澤保彦

解体諸因 方舟は冬の国へ    

               
解体諸因 2010年3月13日(土)
「第一因 解体迅速」:松浦康江という主婦が自宅で柱をかかえるような恰好のバラバラ死体で発見され、ついで土居淑子というOLが自宅で同じような恰好で発見されたが無事で、殺されていたのは恋人の坪井純也だった。大学卒業後定職についていない匠千暁が飲みながら推理する。
「第二因 解体信条」:息子の結婚に反対し自殺すると脅していた花田憲江が、青酸ソーダで死に、自宅でバラバラ死体で発見された。教え子の小菅姉妹に相談されて、教師の辺見祐輔が推理する。
「第三因 解体昇降」:マンションの八階からエレベーターに乗るところを目撃された県会議員の愛人飯田頼子が、エレベーターが一階に着くと全裸のバラバラ死体になっていた。
「第四因 解体譲渡」:マンションのごみ集積所で数個のゴミ袋に分散された住人の鹿島芙美のバラバラ死体が見つかり、半同棲していた真田が逮捕されたが、真田は二股かけていた穂積陽子が陥れたと主張した。
「第五因 解体守護」:匠千暁の女友達高瀬千帆が家庭教師のバイトをしている家庭で、子供のクマのぬいぐるみの腕がもがれて、その後でハンカチが巻かれているのが見つかった。
「第六因 解体出途」:匠千暁の叔母沢田直子の娘香里が付き合っている若木徹が殺され、六個の段ボール箱に分散されて見つかった。交際に反対する伯母に言われて会いに行った匠は、その現場を見ていた。そして、沢田直子もビルから跳び降りて死んだ。
「第七因 解体肖像」:匠千暁の後輩小菅亜紀子の同級生島岡万里子がモデルになったポスターの首の部分がことごとくカッターでくりぬかれるという事件があった。万里子が学園祭で詐欺まがい合コン斡旋の被害にあった兼松健夫が万里子に抗議しようとして、高校生の集団のリンチにあって死んでいた。
「第八因 解体照応−推理劇『スライド殺人事件』−」:7人の女性が首切り死体で見つかり、その死体のそばには前に見つかった死体の首が置いてあるというミステリー劇。
「最終因 解体順路」:土居淑子というホステスと歯科助手の穂積陽子が殺され、その首が入れ替わっていた。犯人は真田奈津代だというが、なぜ首を入れ替えたのか、匠千暁は酒場で刑事を名乗る男から相談を受けた。
バラバラ殺人を扱った短編集だが、8番目の推理劇はそれ自体完結したミステリーでありながら、最終話のプロローグとなっている。さらに、名前からわかるように、第1話、第4話、第7話も第8話に結びついてくる。そんなことのためにバラバラにするかと突っ込みたくなるが、それにしても複雑だ。デビュー作ということで選んだが、長編のほうが良かった。

               
方舟は冬の国へ 2017年3月17日(金)
 ブラック企業を辞めて休職中の「書店員が選んだ 和人は、言語同断(てくらだ)という男から妙な仕事を依頼される。それは、末房信明という人物が所有する別荘で、もう一人の女性”妻の栄子”と”娘の玲衣奈”とともに、家族になりすまして1カ月過ごすというものだった。家の中には監視カメラや盗聴器が仕掛けられて、すべて監視されているという。監視されている以上、家族として接しなければならないが、そうするうち”信明”と”栄子”は心を通わすようになり、そして不思議な現象が起こる。
 現象としては、予想した通りだった。もう一度読みたい文庫」家族小説部門第1位だそうだ。