西尾維新

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い 掟上今日子の備忘録 掟上今日子の推薦文  

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い 2009年11月29日(日)
 大財閥の勘当された娘、赤神イリアが四人のメイドと暮らす鴉の濡れ羽島に、天才たちが招かれた。元盲人でスタイルを持たない画家・伊吹かなみ、肌をなめただけで血液型をあてる味覚をもつ料理人・佐代野弥生、世界屈指の研究機関で七愚人と呼ばれる超越的存在の一人・園山赤音、人の心や未来がテレビを見るように見えてしまう占い師・姫菜真姫、かつてネットワーク上で暴れまくった《チーム》のリーダーだった技術屋・玖渚友。それに、かなみの介添人・逆木深夜に、玖渚の介添人のぼく。四日目の朝、伊吹かなみが首のない死体で発見された。
 ミステリーとしては『嵐の孤島』ものということになる。トリックは不自然極まりない作りものだが、最後のどんでん返しの真相はさらに驚がく的だ。本を注文する時、「クビキリリサイクル」と入力したら間違いだった。タイトルがトリックを暗示しているのだ。それにしても、若い女性の天才たちや三つ子のメイドのキャラクターがおもしろいし、どちらかというと語り手のぼくがほのめかす自分自身の謎のほうが興味深い。シリーズものとして次も読んでみたくなる仕掛けだ。登場人物の名前がみな変だし、「生きている理由をそもそも考えないほどに、生きている意味をそもそも考えないほどに、生きている価値をそもそも考えないほどに」といった反復的な語法も、全体として作品の世界の雰囲気を創りあげている。メフィスト賞受賞作。
 「人の生き方ってのは、要するに二種類しかない。自分の価値の低さを認識しながら生きていか、世界の価値の低さを認識しながら生きていくのか。」

掟上今日子の備忘録 2018年8月29日(水)
 研究所で室長のバックアップデータのSDカードがなくなった。真っ先に疑われたのは、雑用係で入ったばかりの僕だった。僕、隠館厄介はこれまで度々事件に巻き込まれ、その他に犯人と疑われてきた。そして身につけた自衛策が自衛策が、探偵を雇うこと。僕は、置手紙探偵事務所所長の掟上今日子さんを呼んだ。彼女は、知る限り『最速』の名探偵だ。なぜなら、彼女は一度寝るとそれまでの記憶をすべて失ってしまうのだ。こうして、僕隠館厄介は、会うたびに初対面の今日子さんに、SDカード紛失事件、盗んだ百万円を返してほしければ一億円用意しろ、急死した作家が隠した最後の作品の原稿を探す、といった珍事件を解決してもらう。
 テレビドラマで見ていたが、幸いにもまったく覚えてなくて、新鮮に読めた。キャラクターが際立っていて、おもしろい。

掟上今日子の推薦文 2019年8月8日(日)
 親切守は、希望通り警備会社に就職し、美術館に配置された。白髪の女性がたびたびやってきては、一枚の絵をじっくり眺めていた。つい声をかけると意外に可愛らしい女性で、差し出された名刺には「置手紙探偵事務所所長 掟上今日子」と書いてあり、この作品は二億円の価値があるということだった。だが、ある日またやってくるとその絵の前を素通りしてしまった。また声をかけると、二億円どころかせいぜい二百万円ということだった。そしてまた別の日、はかま姿の老人がやってきて、いきなり杖でその絵を滅多打ちにしてしまった。こうして失業してしまった親切守は、自分が失業した理由、絵の価値が変わったり、壊された理由の解明を掟上今日子に依頼する。彼女は、一度寝ると前の記憶がなくなる忘却探偵だった。後日、その老人、額縁匠の和久井翁に警護を依頼され、忘却探偵にアドバイスを求める。不穏な空気を感じた探偵と一緒に和久井翁のアトリエ荘をたずねると…。
 忘却探偵シリーズの2作目。テレビドラマで見ていたが、おもしろかった。 ワトソン役が1作目と替わっていておやっと思ったが、1作目のワトソン役は探偵を記録する作家になり、2作目のワトソン役は探偵の警備員になるということだ。