西村賢太

どうで死ぬ身の一踊り 暗渠の宿 苦役列車  

どうで死ぬ身の一踊り 2009年12月22日(火)
 大正時代「根津権現裏」という小説を発表して注目され、無頼の生活の果てに野垂れ死にした藤澤清造に傾倒し、その全集の刊行を企てる男。この男は、三十過ぎで、同棲している女の給料で暮らし、女の実家からの借金を全集刊行費用にあて、藤澤の資料を買い集めている。ちょっとしたことで切れて女に暴力を振るい、関わる人々や女の親を口汚くののしる。驕慢、卑屈、物欲、 性欲、浪費癖、およそ通常の小説では描かれるはずもない人間の矮小さをこれでもかと描いた私小説。不快感を通りこして、痛快にさえ感じられてくるから不思議だ。男というのはしょせんこんなものかもしれないと思ったりもする。
 「墓前生活」は、能登の菩提で打ち捨てられた木製の墓をもらいうけて部屋に飾る話。「一夜」は女との生活に焦点をあてた作品。

暗渠の宿 2010年7月20日(火)
 「けがれなき酒のへど」:学歴もなく容貌も劣り収入も少ない私は、普通の恋人が欲しいという一念から風俗に通い、恵里という子を一目で気に入り、敬愛する作家の全集を出すための資金を取り崩して通いつめ、外で会えるようになる。彼女には借金があるのだという。
 「暗渠の宿」:中華屋に通いつめてやっとできた恋人と同居することになり、苦労して部屋を決めるが、一緒に暮しはじめると、彼女の態度が気に入らなかったり、彼女の過去に嫉妬したりするようになった。そして本性の暴力をふるうようになる。
 日本文学史上最低、最悪の主人公の私小説。 小心なくせに暴言を吐いて内心恐れ、狡猾に知恵を働かすが傍から見たら間抜け。「ぼく」は都会っ子でスタイリストだと思い込んで、人のことは田舎の百姓と馬鹿にする。大正期の小説家・藤澤C造への私淑が唯一心のよりどころでそれを虎の威にしている。読んでいるほうが恥ずかしくな るほどの情けなさで、最後は笑うしかない。野間文芸新人賞受賞作。

苦役列車 2012年7月14日(土)
 北町貫多十九歳。父が性犯罪で逮捕され、中学卒業して家を出て、日雇いの港湾人足仕事で生計を立ててきた。それも一、日おきだけで、稼いだ金は酒や風俗で使い果たし、家賃を踏み倒しては逃げるということを繰り返してきた。友達もいたためしがなかったが、なぜか同年齢の専門学校生日下部が話しかけてきて、飲みに行ったりするようになった。
 青春時代とあって、まだ強烈な愚劣さはないが、自堕落で底辺をうごめく様は相変わらず。話題になった芥川賞受賞作。映画化もされた。