二階堂黎人

ユリ迷宮 吸血の家 軽井沢マジック 覇王の死

ユリ迷宮 2004年3月14日(日)
 女子大生探偵二階堂蘭子が活躍する短編集。「ロシア館の謎」は、《殺人芸術会》という会合で語られた、第一次大戦後のロシア、バイカル湖の北にある窪地に建つ城館が一夜にして消えたという謎に解答を出す。「密室のユリ」は、販売間もない警備員つきの高級マンションでの密室殺人の密室トリックを解き、犯人をいとも簡単に突き止める。「劇薬」は長編といっていい長さで、あこぎを絵に描いたような不動産と金融の社長が脅迫状を送られ、犯人探しのために二階堂黎人と顧問弁護士、かかりつけ医師などの関係者を招いてコントラクトブリッジのパーティー中、砒素中毒によると思われる心臓発作で殺されるというもの。作中に「小説の場合、探偵が解決を示しても、その後にかなりの頁数があったら他の解決が残っていることは明白じゃないか−」とある通り、結末が二転三転するのだが、3作に共通しているのは、あれもこれもありえなければ、答えをそれをひっくり返したところにあるということ。今回の感想は、ヒント満載である。

吸血の家 2005年1月5日(水)
 ある雪の日の朝、二階堂黎人たちがよく集まる喫茶店に奇妙な女が現れて、殺人事件を予告して雪の中に消えていく。その事件が起こるとされたのは、黎人・蘭子兄妹の親戚筋に当たる八王子の「久月」という屋号を持つ雅宮家。雅宮家は江戸時代は遊郭で、戦前から割烹旅館を営んでいた が、現在は三人の姉妹と長女の娘、使用人夫婦だけで暮らしている。この雅宮家では二十年前犯人の足跡のない殺人事件があり、事故として処理されていた。
 生まれつき病弱な長女の娘の除霊を行うことになり、黎人と蘭子も招待される。その除霊を行った部屋で密室殺人事件が起こり、次女の前夫で霊能力者を呼んできた男が殺される。さらに、テニスコートでこの霊能力者が殺され、やはり回りに犯人の足跡はなかった。
 江戸時代の遊郭の時の呪い、美人3姉妹、病弱な娘、怪しい使用人とくると、まさに横溝正史の世界。そして、殺人予告があったにもかかわらず、探偵蘭子の目の前で殺人が起こる。足跡の謎は、言われてみればなるほどという感じだし、家族の生年月日が明かされているのもそうだったのかという感じ。ただ、密室殺人については、時計が前から壊れていたこととか、車で出たことを偽装したにもかかわらず車が戻っていないなど、死亡時刻を推定する段階で既に読者でさえわかってツッコミを入れているのに、どうしたんだろう。

軽井沢マジック 2008年1月3日(土)
 旅行代理店の社員美並由加里、憧れの上司水乃サトルとの出張帰り。特急あさま38号が軽井沢駅で長時間停車し、水乃の知り合いのペンションへ行こうと誘われて途中下車する。ところがその列車のグリーン車で、ナイフを刺された死体が発見されていた。翌日、ペンションのオーナー熊田とともに近くに住む作家の麻羽幸之助を訪ねると、警察が来ていて、浅羽は死んでいた。謎解きをしようとした水乃は、逆に警察に拘束されてしまう。列車で殺されていたのは、水乃たちが商談で訪ねた妙高高原バレー・ホテルの社長日野原義三郎で、しかもその前にホテルでは夫人で副社長のみさえも同じナイフで殺されていた。
 過去の女優による1億円強奪事件、謎の新興宗教がからんで、不可解な事件の連鎖。ブランドファッションにアイドル並みの美貌、それなのに社内の女性の間では変人扱いというキャラクターの水乃。これは、内田康夫の浅見光彦のパロディーといってもいいかもしれない。キャラクターものはやはりおもしろい。

覇王の死 2015年8月21日(金)
 青木俊二は毒島という弁護士から、能登の眞塊谷を支配する邑知家の血を引く尾崎智仁という亡くなった青年になりすまして、邑知家を継いで財産と、当地に隠されているという徳川の財宝を手に入れるという計画を持ちかけられ、眞塊谷へ向かう。一方、眞塊谷にアメリカの宣教師が移住してできたニューホーリー村では奇怪な事件が起こっていた。村のライブラリーを管理しているハリー爺さんが自殺して、村を出ていった男女が首を千切られて木の枝に刺されて死んでいた。そして、人々は疑心暗鬼に陥り互いに警戒しあっていた。眞塊村の邑知家では、当主の邑知大輔の孫娘みねりと後継の競争相手になる杏香が、青木と競争相手になる今野洋一を迎えた。4人の組み合わせのうちの2人が邑知家を継ぐのだという。
 「ラビリンス」サーガの最終編。 最後の最後で二階堂蘭子が快刀乱麻に謎を解き明かしてしまうのは相変わらずだが、次々と難病を当てはめるのはちょっと無理がある感じもする。「ラビリンス」サーガは読んでいなかったので、これから遡って読もう。