梨屋アリエ

ピアニッシシモ      

ピアニッシシモ 2007年3月19日( 月)
 松葉のアパートの近所の家から、ピアノが運び出された。その家に一人暮らす時子さんの弾くピアノの音に、松葉は幼い頃から心を慰められてきたのだった。時子さんが病気で倒れて、ピアノを人に譲ることになったのだという。譲る先を聞いて出かけると、そこには紗英という松葉と同い年ぐらいの少女がいた。高慢で自信家の紗英だがなぜか松葉をしつこく誘い、松葉も平凡な自分とは違う能力のある紗英に惹かれていく。
 境遇や性格の異なる二人の少女の友情物語なのかなと思って読むと、必ずしもそうでもない。小学生が子供で、高校生が大人への入口だとしたら、中学三年生の松葉は繭の外に憧れ、同時に不安に思う存在なのかもしれない。食玩コレクターの父、ブランドマニアの母、理想の大人とは思えない両親に、選手になれなくてバドミントン部もやめた何のとりえもない自分。
 「みんなと同じ世界の基準ばかり気にしていたから、自分に違和感があったのだ。自分の基準とみんなの基準に小さな隙間があることを知っていたら、ねじまがることはなかったのだ。」
 松葉が時子さんのピアノに安らぐところとか、松葉と紗英が親しくなっていく過程とか、あまりにあっさりと唐突な感じもするが、子供の世界はそんなものだろう。日本児童文芸家協会新人賞受賞作。