なかにし礼

長崎ぶらぶら節      

長崎ぶらぶら節 2006年7月25日( 火)
 明治十六年、十歳のサダは長崎・丸山の芸者置屋に売られた。やがて愛八という名前で舞子、芸者となり、器量は劣るが、唄のうまさときっぷの良さ、それに土俵入りの隠し芸で名妓と呼ばれるまでになる。いつの間にか五十近くなり、辻占売りや花売りの娘に同情して売れ残りを買い上げたりとか宵越しの金を持たない気前の良さから、気がついてみれば家族もなければ家の中に何もない。そろそろ潮時かと思い始めた頃、ふとしたきっかけで大店の跡取りで長崎学の研究家古賀十二郎を知り、初めて恋心を抱く。古賀は店の身代を研究と遊蕩に使い果たしている、風変わりな妻子ある男だった。ある日、愛八は古賀に一緒に長崎の古い歌を探して歩こうと誘われる。
 「歌は目に見えない精霊のごたるもんたい。大気をさ迷うていた長崎ぶらぶら節が今、うったちの胸の中に飛び込んできた。これをこんどうったちが吐き出せば、また誰かの胸の中に入り込む。・・・そうやって歌は永遠に空中に漂いつづける。」「ああ、歌をつくりたい。・・・この世に自分の命の跡形を一つでも残しておきたい・・・。名もない小さな虫けらのような命でも燃やせばきっと燃えるに違いない。」作詞家としての意気込みが感じられる言葉。
 明治、大正、芸者、郷土芸能といった題材にはあまり関心のある分野ではないが、古賀への思い、自分の分身のように思うお雪への愛情など、感動できる内容だった。