中村弦

天使の歩廊      

天使の歩廊 2011年9月1日(木)
 銀座の裏通りの西洋洗濯屋の子として生まれた笠井泉二は幼少の頃から優秀さを示し、西洋の建築物への興味を持ち、東京帝国大学工科大学の建築学科に進み建築家となった。しかし、彼は学生の時から正統を外れた設計をするのだった。
 「冬の陽」:建築会社矢向組の矢向丈明は、学生時代の友人笠井泉二を訪ねた。上代子爵の母の「生きている人間と死んでいる人間とが、いっしょに暮らすための家」という注文を引き受けてもらうためだった。
 「ラビリンス逍遥」:近江平野の田舎の村で、大西湖南という探偵小説作家が行方不明になった。迷宮閣と呼ばれる屋敷の中で姿を消したという。その建物は笠井泉二が設計したものだった。
 「忘れ川」:実業家の敷丸隆介は妻輝子のために、輝子の生まれ故郷である信州に別邸を建ててやろうと思い、変わった建築家笠井泉二と連絡を取ろうとしていた。輝子は子供の頃銀座にいたことがあり、笠井とは幼なじみだった。
 「鹿鳴館の絵」、「製図室の夜」、「天界の都」は、笠井泉二の過去を明かす挿話。
 建築をモチーフとしたファンタジー。図面なり、イラストなりがないのが残念だが、現実を超える建築だからしょうがない。日本ファンタジーノベル大賞受賞作。