中島らも

今夜、すべてのバーで      

今夜、すべてのバーで 2004年9月15日(水)
 中島らも自身のアルコール中毒での入院体験を小説化したもののようだ。二十五歳で毎晩飲み出し、独立して事務所を持つようになって朝も昼もなく飲むようになり、三十五歳で死ぬと言われていたその年に病院へ入院する。その闘病記のようなものと、アル中に至るまでの経緯や病院の人々が描かれている。
 中で、おもしろい言葉がいくつかあった。煙草が好きなのに喫煙室には行かない老人の話で、「若い人は、いろいろ自慢することがありまっしゃろ。わがの知っとうこととか、したこととか。たいていは私ら年寄りは知っとることやさかい、黙っとるのがええ。そやけど、知っとることは、えばりたいのが人間の業じゃさかいな。そういうときは、おらんようにするのがええんですわ。」
 もう一つは、主人公の亡くなった親友の妹で事務所で雇っている女性の言葉。「とにかく死んじゃう人のために心をつかうのはあたし、おことわりよ。死んでしまう人って、とても高慢だわ。・・・死者はいつも生き残った人間をせせら笑っているんだわ。まだ、そんなことをやってるのか、って。ご飯を食べたり、会社へ行ったり、恨んだり、怒ったり、笑ったり、傷つけ合ったり、死者から見れば、あたしたちってずいぶんと頓馬に見えるはずよ。・・・シェーンが格好よく立ち去ったっていうのは、あいつの卑怯な手口なのよ。思い出になっちゃえば、もう傷つくことも、人から笑われるような失敗をすることもない。思い出になって、人を支配しようとしているんだわ。」 自分で自分への弔辞を書いたのだろうか。