中島京子 |
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かたづの! |
FUTON 2010年11月15日(月) |
大学で日本文学を教えているデイブ・マッコーリーの教え子で愛人の日系人エミが、日本人留学生に誘われて日本へ行ってしまった。東京での学会に招待されたのを機に、エミに会うため日本へ向かう。そして、エミの祖父が鶉町というサンドイッチ店を開いていることを知って、その店に入り浸ることになる。その店で、エミの曽祖父ウメキチに付き添ってウメキチの人生を絵に描こうとしているイズミと知り合う。 デイブとエミのストーリー、デイブが田山花袋の「蒲団」を主人公の妻の視点から書きなおした<蒲団の打ち直し>と、ウメキチのツタ子という女性を巡る回想が並行して語られる。デイブの心境と「蒲団」は表裏一体のものだが、ウメキチとイズミのストーリーはややずれているが、全体に立体感を与えているようにも思える。上手いし、おもしろいが、少し才能の無駄遣いという感じがしないでもない。この前の直木賞受賞作家のデビュー作。 まったく知らない作家の突然の受賞で驚いたが、万年新人賞候補だったらしい。 |
小さいおうち 2013年1月24日(木) |
昭和五年、尋常小学校を卒業したタキは、東京へ出て女中になった。時子奥様に仕え、再婚相手が建てた郊外の丘の赤い三角屋根の洋館で戦前、戦中を生きてきた。甥が借りてくれたマンションに住んでそのころの思い出をノートに書いていると、甥の次男が時々読んで、時代の認識が間違っていると言う。タキは次第に読まれていることを楽しみに、書き続ける。 昭和初期の時代の様子や、タキの有能な女中ぶり、「家政婦は見た」的な部分もあって、楽しく読めた。直木賞受賞作。 |
妻が椎茸だったころ 2017年3月21日(火) |
「リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い」:甲斐佐知枝が学生時代半年間留学した時住んでいたのはミシガン州ポートエルロイのリデル通りだった。友人を訪ねてオレゴン州へ行った帰り、雪に降られて困っている時助けてもらったイェンスカという老婦人の家もリデル通りにあった。イェンスカは5回も結婚していた。テレビのニュースで、そのリデル通りの家での事件を映し出していた。 「ラフレシアナ」:友人の誘いで出たパーティーで知り合った立花一郎という男は極端に不愛想だが、たまたま家が近所だったので、出張で留守の間食虫植物ネペンテス・ラフレシアナの世話を頼まれた。その立花に恋人ができたと聞き、街中で見かけるとその恋人はラフレシアナそのものだった。 「妻が椎茸だったころ」:妻が突然亡くなり、葬式を出して二、三週間過ぎた頃娘から電話があり、妻が予約していた人気の料理教室に代わりに出てくれと言われた。電話すると椎茸を煮て持ってくるよう言われ、妻が書いていたレシピノートを見ると、「私が椎茸だったころに戻りたいと思う」と書いてあった。 「蔵篠猿宿パラサイト」:韓国からの留学生ハンミと卒業旅行に近場の蔵篠温泉に行くと、医師マニアの男と知り合う。ハンミは食傷気味だったが、由香のほうは気に入ったらしかった。男は変な目の色をしていたが、由香の目も金色に光っていた。 「ハクビシンを飼う」:沙那の義理の父の妹にあたる笙子さんが亡くなり、住んでいた家の整理に出かけると、若い男がいて、笙子さんと一緒に暮らしていたオーサコヨシノブさんの甥のようなものだと言った。ハクビシンの駆除で便利屋のヨシノブさんを呼んで、しばらくして一緒に暮らすようになったのだそうだ。 事件らしい事件は「イェンスカ」の物語だけだが、植物、料理、石、野生の獣に魅入られたおかしくも悲しいホラー。泉鏡花賞受賞作。 |
長いお別れ 2018年1月20日(日) |
中学校の校長、図書館の館長を務めた東昇平が認知症
を患い、症状は年々悪化していく。妻の曜子は、アメリカにいる長女の茉莉、家庭を持っている次女の菜奈、フリーランスで働いている三女の芙美を呼び集めて現状を見せて、三姉妹はGPS付き携帯電話を両親にプレゼントする。長女が住むアメリカに連れて行ったり、昇平の故郷に連れて行ったりするが、「帰る」、「いやだ」を繰り返すようになる。 認知症の父と妻、娘たちの日々を描いた、中央公論文芸賞・日本医療小説大賞受賞作。 作者はフリーライター出身で、笑わすツボを押さえているので、楽しく読めた。 |
かたづの! 2023年6月17日( 土) |
江戸時代初期の北奥羽、八戸の種差海岸で一本角の羚羊(かもしか)が弓矢で射られるところを一人の少女に助けられ、あとをついていき、その少女・根城南部氏
の祢々というおかた様とひと月ほど過ごし、いろいろ話を聞かされる。祢々の夫で藩主の直政、幼い嫡男の久松が変死を遂げて、叔父の三戸南部氏利直から婿取りを強要された祢々は、自ら髪を下ろして得度して清心尼と名乗り、女城主となる。その後も利直から次々と難題を突き付けられ、ついに八戸から遠野へ移封されることになる。祢々は、羚羊が亡くなった後に残った片角の不思議な力にも助けられ、困難を生き抜いていく。 根城南部氏を題材にした歴史小説。 史実に基づくが、羚羊、猿、河童といった伝説をふくらませてファンタジーにまでふくらませたファンタジーに仕立てた、ストーリーテラーらしい作品。河合隼雄物語賞、歴史時代小説作家クラブ賞、柴田錬三郎賞受賞作。おもしろかったし、郷土の勉強にもなった。 |