中原昌也

あらゆる場所に花束が…… 名もなき孤児たちの墓    

あらゆる場所に花束が…… 2005年9月6日(火)
 次々と登場人物が増殖していって、ストーリーも同時に分裂していって、何の脈絡もなく暴力がふるわれる。小林という謎の実業家がその中心にいて、人物達は彼とどこかでつながり、それぞれ接近し交差するが、決して最後まで収束することはない。ストーリーの説明のしようがない。
 タランティーノの「パルプ・フィクション」に影響を受けた(かどうかは知らないが)「ハチャメチャ暴力派」(と呼んでいいのかどうかわからないが)の頂点に立つ と言っていい作品。阿部和重や舞城王太郎ともまた違うような感じがする。おもしろいことはおもしろかった。三島賞受賞作。
 関係ないが、文庫本の解説は読めなかった。ここから、どうしてそこまで書けるのか。評論家というのはものすごい人種だ。

名もなき孤児たちの墓 2010年4月30日(金)
 15編の短編と芥川賞候補になった「点滅……」。「典子は、昔」とか「憎悪さん、こんにちは!」とか、明らかに映画あるいは小説をもじったタイトルもあるが、1つ1つ紹介する必要もないだろう。「女性を何の良心の呵責もなく家畜のように撲殺した経験のない奴に、本当の優しさなんてわかってたまるかよ」(私の『パソコンタイムズ』顛末記)、「いまや文学など、誰も相手にしていないのに、デカい面ばかりしやがる。それにどれも女に媚売った低俗なものばかり。」(女たちのやさしさについて考えた)、「何か書いても、まったく中身のないことし書けなかった。彼女が書くことによって、誰も幸せにならなかった。しかし、それで最も幸せでなかったのは彼女自身であった。」(典子は、昔)といった、暴力衝動や文学に対する自虐表現が共通している。タイトルは「何の目的もなく垂れ流される孤児のような言葉たち」から。その通りだった。野間文芸新人賞受賞作。