長岡弘樹

傍聞き 教場    

傍聞き 2012年5月1日(火)
 「迷走」:救急出動した被害者は、隊長の娘をはねた医師を不起訴処分にした検察官だった。そして、彼が頼んだのはその医師だった。呼び出した医師の携帯が突然切れ、隊長は病院の回りを走らせるだけで、病院に搬送しようとしなかった。
 「傍聞き」:同じ名字の隣家に泥棒が入り、容疑者として逮捕されたのはかつて自分が手錠をかけたストーカー犯だった。殺人事件の捜査で忙しい母親に抗議して、娘は口をきかなくなり、お礼参りを心配する中、その男が面会を要求してきた。
 「899」:住んでいるアパートの近くで出火し、出動すると隣家の女性が、娘がベビーベッドで寝ているという。子供を事故で亡くした隊員に任せるが、見つからないという。しばらくして救出されたが、その隊員は辞めたいと言ってきた。
 「迷い箱」:刑務所を出所した人間のための更生施設を出た男が、1週間家電量販店へ行ったり、居酒屋へ立ち寄ったり不審な行動をした後、自殺を図った。彼は自転車で子供をはねて死なせ、親から「死んでください」という手紙を受け取っていた。
 なぜかどこかで読んだようなストーリー、見たようなシーンという感じがして、最後まで読んでもそうだろうなという感じで意外性は感じないし、行動やその動機が無理やり作ったようで不自然。人の異常な行動の裏に隠された心の動きがあったというパターンの謎解きミステリーはよくあるが、作り過ぎてもおもしろくない。日本推理作家協会賞短編部門受賞作。新聞でしょっちゅう広告して大ベストセラーらしいが、それほどでもないという感じもした。

教場 2016年1月2日( 土)
 とある県の警察学校。急病で入院した担当教官に代わって教室に現れたのは、風間という白髪の男だった。学生時代警官に助けられ、憧れて入ってきた宮坂とその警官の息子の平田。恋人をひき逃げで失い、その犯人を逮捕するためインテリアコーディネーターをやめた楠本。音を聴いて速度を当てられる耳を持ち、白バイ警官に憧れている鳥羽。元ボクサーで、警察でいいポジションを目指しているが学科の成績が悪い日下部。スズメバチに異常な恐怖心を持ち、そのため不審な行動をとる由良。成績優秀で冷静で、総代を目指している都築。それぞれ問題を抱えていて、そのため秘密の罪を犯してしまうのだが、風間はシャーロック・ホームズのように見抜いてしまう。そして生徒たちは成長していく。
 週刊文春「2013年ミステリーベスト10」国内部門第1位に輝いた、警察学校を舞台にした連作ミステリー。パターンで言えば、柳広司の「ジョーカー・ゲーム」に似ているかもしれないが、おもしろかった。