長野まゆみ

少年アリス 野ばら 天体議会  

少年アリス 2003年9月16日(火)
 タイトルの「アリス」は「不思議の国のアリス」から取っているようだ。ある晩夏の夜、アリスの家に友人の蜜蜂と飼い犬の耳丸がやってきて、これから忘れ物の兄の色鉛筆を学校へ取りに行くと言う。一緒に夜の学校へ忍び込むと、理科室で不思議な授業が行われている。気づかれて逃げ遅れたアリスは、遅刻した生徒と間違われて、他の生徒と一緒に星と月を作って、空を飛んで天蓋に星を縫い付ける・・・。一度は逃げた蜜蜂もアリスを探しに戻ってくる・・・。漢字ばかりのいろいろな植物の名前が出てきたりして、古風でモダンな、宮沢賢治のような独特のメルヘンの世界を作り出している。物語の後半では、二人の少年が自分を分析したり、友情を考えたりして、夏から秋への境界の幻想から現実に戻る間に、人間としての成長を遂げていく。おもしろい作品だった。
 大きな文字と広い行間で、3〜5作品で1冊ぐらいが適当な長さの作品だが、童話か何かのように1作品で1冊というこだわりがあるのかもしれない。

野ばら 2008年6月24日(火)
 月彦が目を覚ますと、そこは学校の講堂だった。ガヤガヤと入ってくる少年たちに、見知った顔はなかった。隣に腰掛けた少年は黒蜜糖、前列に腰掛けている少年は銀色といった。舞台の幕がひらくと泉水があり、その眩しさに目を閉じて、また目蓋をあけると月彦は寝台の上にいた。月彦は学校と寝台の間を何度も行きつ戻りつする。野ばらの垣をくぐり抜けようとした銀色は、棘を刺して紅玉色の影を失ってしまった。黒蜜糖は野ばらの垣の外へ出てみせると言う。
 雪白の花びらを降らせる野ばらの垣、かたたたと聞こえてくるミシンを踏む音、深紅の花を咲かせるバラ科の鉄の柱、紅玉の小石の詰まった柘榴…、夢のイメージが反復する。夢の中でもう一つの夢の世界と行き来するような、幻想的なイメージの作品。 とりとめがなさ過ぎて、ちょっと疲れる。

天体議会 2009年7月24日(金)
 銅貨は中等級の第四学級(クラス)の生徒で十三歳。兄の蒼生(あおい)は高等級の最終学級に通う十七歳。実の母に代わって銅貨を生んだバービィ、その息子と夫が銅貨の兄と父で、四人とも他人の家族。母(バービィ)は家をあけていることが多く、父も南へ赴任し、兄弟二人だけで都市(シテ)の集合住宅(ジードルング)で暮らしている。新学期が始まって、銅貨が期待しているのは級友たちとの再会。特に友人である水蓮と話がしたかった。中央駅(セントラル)で待ち合わせ、学校をさぼって鉱石倶楽部へ行くと、見知らぬ人形のような印象の少年がいた。
 天体議会とは、天体観測を趣味にしている生徒たちの集まり。少年たちの関心事は、鉱物や天体。高速軌道(トランカプセル)、ロケット発射島(コスモドローム)、角(つの)パン、檸檬水(シトロンプレッセ)、医局(オピタル)、自動人形(オートマータ)、気象通報(メテオ)といった言葉や、様々な鉱物、天体の名前が、硬質で幻想的な世界を創りあげている。そして、銅貨と水蓮の友情を軸に、蒼生の秘密、謎の少年の正体と、物語は進む。感じのいい作品だった。