室井光広

おどるでく      

おどるでく 2024年3月6日(水)
 作者の郷里、南会津地方を舞台にした作品群。風変わりな掌編小説集「猫又拾遺」、子守女のユキエ、土蔵で縊死した祖母、中学生になっても夜尿症が治らなかった少年、婚礼の席で居眠りしていた花嫁などの登場人物、エピソードはほかの中編作品「あんにゃ」、「かなしがりや」、「おどるでく」、「大字哀野」、「和らげ」にも現れる。「おどるでく」はフランツ・カフカの作品に登場する「オドラデク」、石川啄木の「ローマ字日記」に触発された作品で、不要なペダンチズムとしつこい言葉遊びと屁理屈でしかない論理遊びにあふれた読物で、小説ではない、エッセーだと批判されて反対多数であったにもかかわらず、笙野頼子と一緒に1994年の芥川賞 ダブル受賞した作品。本人も「もとよりこれは小説ではありません、むしろ詩や批評に似ているのです、けれど、これでもやはり小説なのです」と書いている。メタ小説といっていいのかもしれない。芥川賞史上最も売れなくて、長く文庫本化されなかった作品。