村田喜代子

ゆうじょこう 飛族    

ゆうじょこう 2017年8月5日(土)
 青井イチは、十五歳で薩摩の南の硫黄島から熊本の遊郭・東雲楼に売られてきた。いきなり性器を入れられる検分を受け、花魁の東雲のもとで修行することになる。午後は女紅場という娼妓の学校で読み書きや計算を勉強する。お師匠さんの鐵子は、旗本の娘だが落ちぶれて吉原に売られ、熊本まで落ちてきていた。きついなまりの消えないイチだが、作文に日記を書いて提出し、鐵子もそれを読んで感慨に浸るのだった。時代も変化していて、花魁が子供を産んでやめたり、脱走する娼妓が増えたりし、ついに東雲楼の娼妓たちもストライキを始める。
 実際に「東雲楼」という遊郭で娼妓のストライキがあったらしいという伝聞に基づく作品。自然児ともいえるイチの感性が魅力的だし、ストライキの行く末も興味深い。読売文学賞受賞作。

飛族 2022年7月11日(月)
 ウミ子が生まれ育った日本海の外れの養生島に住んでいる三人の老女のうち最年長のナオさんが亡くなって、残ったのはウミ子の母、鰺坂イオさん九十二歳と金谷ソメ子さん八十八歳の二人だけになってしまった。葬儀のために帰省したウミ子は、母を島から連れて帰りたいが、ソメ子さん一人残すことになるし、イオさんもそのつもりはない。近隣の小島も、かつては漁で栄えて人口も多かったが、今は無人島も増えている。波多江島の役場から来た鴫さんは、密入国を防ぐために島々を巡って様々な工作をしている。食料に釣りをしたり、海女のソメ子さんについて潜ったりして帰るまでの日々を過ごしているうち大型の台風に襲われる。
 描かれている島は、長崎の五島列島らしい。書かれている伝説や風習が本当なのか創作なのかはわからないが、現実と幻想が錯綜するところがこの作者らしくておもしろい。谷崎潤一郎賞受賞作。