本谷有希子 |
生きてるだけで、愛 | ぬるい毒 | 嵐のピクニック | 自分を好きになる方法 |
異類婚姻譚 |
生きてるだけで、愛 2009年3月11日 (水) |
寧子は、バイト先のスーパーで冴えない男に気安く誘われたことから、鬱を再発し過眠症になってしまった。三年前から同棲している編集者の津奈木は適当にあしらうような態度をとるのだが、それに苛立って当たり散らしてしまう。そんなある日、津奈木の元彼女安堂が別れてよとしつこく押しかけるようになった。寧子を自立させようとする安堂は、話し合っていたレストランで突然寧子をバイトに募集させる。そこは、元ヤンキーが家族で経営しているイタリアンレストランで、家族的な雰囲気に、トイレの相田みつをの句を読んだりして、ここでちゃんと働こうと思うのだったが…。 こいつは鬱だからなと思って読めばそれまでだけど、突き詰めたところでそこはどんづまりという認識で日々過ごしていてこういうのを突きつけられるとつらい。注目演劇家の芥川賞候補作。 「あんたが別れたかったら別れてもいいけど、あたしはさ、あたしとは別れられないんだよね一生。…あたしだってこんなふうに生まれちゃったんだから死ぬまでずっとこんな感じで、それはもうあきらめるしかないんだよね?」 |
ぬるい毒 2014年6月25日 (水) |
向伊という男から高校時代借りた金を返したいと電話がかかってきた。家にやってきた彼は、魅力の塊のような男だった。一年後、二度目の連絡があって、居酒屋に誘われて行くと高校の同窓生だという二人がいて、きれいと持ち上げたり、浅そうとけなしたりする。また一年たって再会した向伊は、三日も私の実家に入り浸っていた。 人との接触を心理ゲームに置き換えて、ゲームに勝とうとして結局引きずり込まれていく若い子の心、という感じなのだろうか。いまいちよくわからない。野間文芸新人賞受賞作。 |
嵐のピクニック 2015年7月18日 (土) |
幻想小説というか、ブラックユーモアというか、「奇妙な味」の短編とショートショートの中間のような作品集。やる気のない女子中学生と思いもかけない結末が待っているピアノ教師の「アウトサイド」、自信のない主婦がある日突然ボディビルにのめり込む「哀しみのウェイトトレーニー」、動物園の猿山に放り出されたチンパンジーと猿の交流を描いた「マゴッチギャオの夜、いつも通り」、その人が人生の中で一番幸せかもしれないという瞬間にかかる率が高いと言われている「亡霊病」、お世辞ほど美しいものはないんだと思う成功したデザイナーの気まぐれの「ダウンズ&アップス」などが印象的でおもしろかった。 大江健三郎賞受賞作。 |
自分を好きになる方法 2016年11月28日 (月) |
主人公はリンデという女性。その16歳の時の昼の弁当をめぐる問題、28歳の時の恋人との旅行先でのトラブル、34歳の時の結婚記念日での幻滅、47歳の時の友人たちとのクリスマス会の確執、3歳の時の幼稚園の昼寝タイムでの先生とのいさかい、63歳になったある一日。目の前の、周りの人たちは皆、いつも趣味や気の合わない人ばかりだった。 リンデという名前など、ドイツかどこかのヨーロッパを思わせる舞台設定だが、実際は、学校で昼お弁当を食べたり、銀行の印鑑を作ったり、お金が円だったり、日本の話だと思ってもいい。主人公の性格が悪すぎて、なかなか読み進めなかったが、周りの人物もやはり性に合わなくて、ちぐはぐな人間関係なのだ。自分もそうかもとか、みんなそういうところがあるかも、とは思った。三島由紀夫賞受賞作。 |
異類婚姻譚 2018年12月28日 (金) |
「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。」これは夫婦は似てくるといったことではない。その夫の顔が時々崩れるようになってきて、生活も崩れて専業主婦の私の真似をし始める。 「トモ子のバウムクーヘン」では平凡で幸福な家庭生活に現れる裂け目の感覚、〈犬たち〉では一人暮らす山小屋にたくさんの犬がいて、麓の町では「犬を見かけたら注意」というビラが配られている。「藁の夫」は、回りの心配を押し切って結婚した夫は藁だった。 幻想的、という以上に非現実的な意外性があっておもしろかった。芥川賞受賞作。 |