諸田玲子 |
其の一日 |
其の一日 2006年6月9日(金) |
「立つ鳥」:荻原彦次郎は勘定所下役から登りつめ、貨幣改鋳を提言し勘定奉行の地位を得たが、将軍家侍講新井白石から糾弾され、罷免を目前にしていた。 「蛙」:弥津は旗本の藤枝家に嫁ぎ、平穏な日を送っていた。姑の本光院は六歳年上、夫の教行は先代の急死によって他家から迎えられた養子で、本光院とは血のつながりのない母子だった。その教行が農家で女を切って切腹したという知らせが入る。 「小の虫」:小藩小島藩の若い江戸詰家臣倉橋寿一郎の父、祖父は寿一郎が九歳のとき急死していた。ある日誘われて柳町へ出ると、商人に声をかけられる。父は恋川春町という名で黄表紙を書いていたのだという。 「釜中の魚」:可寿江はかつて彦根藩主の十四男で不遇を託っていた時期の井伊直弼に愛されていたが、今は大老となった直弼の懐刀長野主膳のもとで密偵を務めている。安政の大獄で不満を持っている水戸浪士たちが直弼の襲撃を謀っていると知り、京から江戸まで駆けつけた。 罷免を覚悟した日、夫の死とその真相を知った日、父、祖父の真実と自分の立場を知った日、愛した人の最期の日、それぞれの一日を描いた時代小説。吉川英治文学新人賞受賞作。 |