森見登美彦

太陽の塔 夜は短し歩けよ乙女 ペンギン・ハイウェイ  

太陽の塔 2007年6月17日(日)
 「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。」とうそぶく休学中の京大五回生の手記。「内容は私の日常である。『おまえの日常なんぞに興味はない』という方は 読まないほうが賢明であろう。」寿司屋でアルバイトし、自分を袖にした水尾さん研究というストーカー行為に明け暮れる日常。体育会系クラブで知り合った友人、飾磨、高藪、井戸はそれぞれユニークなキャラクターで、ともにジョニーをもてあまし、男汁にまみれ、クリスマスやヴァレンタインデーを呪詛する同士。思わず声を出して笑ってしまうエピソードも。人をストーカー呼ばわりしながら、実は自分も水尾さんを付け回している遠藤との熾烈な戦い。太陽の塔に魅せられてしまった水尾さん。恐ろしい視線を持つ「邪眼」の植村嬢。時々、幻のように現れる叡山電車。そして、飾磨はクリスマスイブの夜、四条河原町交差点で「ええじゃないか騒動」を決起するという。
 文化遺産的な負のエネルギーを持つ男子学生たちの体臭が移りそうな作品。おもしろいといえばおもしろいが、この世界が受け入れられなければおもしろくもなんともないだろう。しかし、表現は才気ばしっていてうまいしおもしろい。最近話題の作家のデビュー作で、なぜか、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

夜は短し歩けよ乙女 2008年2月3日(火)
 クラブの後輩の黒髪の乙女に惚れた先輩は、外堀を埋めるべく、彼女の目にとまるよう偶然の出会いを頻発させる。夜の木屋町先斗町で奇人たちと飲み歩く彼女の後を追い、夏の下鴨神社の古本市では彼女が手を伸ばした本に同時に手を伸ばすという恥ずべき計画をめぐらし、秋の学園祭ではゲリラ演劇の主演女優の代役を任された彼女のために相手役を奪い取る。しかし、彼女は「奇遇です。先輩とはしばしばお会いしますね。」と言うだけだった。
 鯨飲する女羽貫さん、いつも浴衣姿の樋口さん、三階建の電車に乗る高利貸の李白さん、願掛けで同じパンツをはいたままのパンツ総番長、詭弁論部に閨房調査団と、怪人たちの中を天然に突き進む彼女。 恋の行方は果たして…。山本周五郎賞受賞作。かなりおもしろかった。
 「達磨のように膨れる私を取り囲むのは、どこまでも続く本の海だ。彼らは言う−「俺らを読んで、ちっとは賢くなったらどうだい、大将」。しかしながら、彼らに希望を託すことにはすでに飽き飽きした。読めども万巻に至らず、書を捨てて街へ出ることも能わず……読書に生半可な色目をつかったあげく、ウワサの恋の火遊びは山の彼方の空遠く、清らかだった魂は埃と汚辱にまみれ、空費されるべき青春は定石通りに空費された。」

ペンギン・ハイウェイ 2013年2月6日(水)
 ぼくはまだ小学校の四年生だが、毎日ノートを取り、本を読み、いろんなことを研究し、同級生のウチダ君と探検している。脳のエネルギーのために甘いお菓子を食べすぎ、歯を磨かないで寝てしまうので、歯科医院に通っている。そこのお姉さんに「海辺のカフェ」でチェスを教えてもらっている。ある日、ぼくが住んでいる郊外の街にある日ペンギンが現れた。そして、お姉さんがコーラの缶を放り投げると、ペンギンに変わった。お姉さんは「この謎を解いてごらん」と言った。ぼくは研究を始めた。すると、同じクラスのハマモトさんが〈海〉を研究していると言ってきた。それは、森に囲まれた草原の地上三十センチぐらいに浮かんだ不思議な透明の球体だった。
 少し風変わりな少年のひと夏のファンタジー。どこか村上春樹っぽいミステリアスな感じもあって、おもしろかった。日本SF大賞受賞作。 SFというほどでもないような気もするが。