森博嗣 |
笑わない数学者 | 詩的私的ジャック | 封印再度 | 夏のレプリカ |
今はもうない | 数奇にして模型 | 有限と微小のパン | 黒猫の三角 |
φは壊れたね | 四季 春 |
笑わない数学者 2003年6月4日(水) |
N大建築学科助教授犀川創平とその学生西之園萌絵のコンビが活躍する、シリーズ3作目。1作目の「すべてがFになる」は、動機・トリックとも常人の理解を超えた超理系ミステリー、2作目の「冷たい密室と博士たち」は反省したのかやや平凡だった。 一人死に、一人行方不明というと綾辻行人の「水車館の殺人」を思い浮かべるが、この作品は「館」もポイント。読んでいて最初にそれは変じゃない?と思った人物が、やはり犯人だった。(音の問題、だが最後の謎解きには全然使われていない)しかし、物語が終わっても、実は大きな謎が残っている。この文庫本は後書きも素晴らしい。 このシリーズの魅力は二人のキャラクターにあるが、この二人がいかに変人であるかは、「すべてがFになる」に詳しい。 |
詩的私的ジャック 2003年9月15日(月) |
お気に入りの犀川創平・西之園萌絵師弟コンビシリーズである。今回は2件、そして3件と大学を舞台に連続して密室殺人事件が起こるが、密室トリック自体は萌絵があっさり解いてしまう。だからと言って、犯人がわかるわけではない。ミステリーというと密室トリックというのが出てくるわけだが、密室トリックというものがそもそもなんで必要なのということを問いかけている。このシリーズでは、登場人物がすさまじい頭脳の回転力で推理してくるので、読者が一緒に考えるというような余地はあまりないような気がするが、そこがまた爽快で楽しく読めるのだろう。犀川助教授の独特の世界観というのも、読んでいておもしろい。今回の作品は動機の異常さという点で、最初の「すべてはFになる」に近いかなという感じがする。 |
封印再度 2004年4月29日(木) |
中に鍵が入っているが取り出せない「天地の瓢」という壺と、その鍵で開く「無我の匣」という箱があり、その持ち主である日本画家は50年近く前に密室の中で謎の死を遂げていた。そして今度は、その息子である当主が、仕事場にしている密室状態の蔵の中から姿を消す。好奇心から事件にかかわったN大学工学部の西之園萌絵と、助教授犀川創平のコンビがその謎を追求する。 今回の鍵のトリックは、正直言って工学系の知識がないと解きようがない。ただし、その逆ヒントとも言えるものは冒頭で示されているから、勘が良くてその方面の知識のある人ならピンと来るかもしれない。ただし、そのような状況でその手順を実行できるかどうか、やや無理があるような気もするが。この作品では珍しく、叙述トリックが2箇所ほど施されていて、これはなかなかうまいと思った。コンビの進展具合もおもしろい。 |
幻惑の死と使途 2004年8月10日(火) |
S&Mシリーズの第6作目。巨匠マジシャン有里匠幻が、公園の池での脱出ショーで成功したと思われた直後死んでいた。さらに、葬儀の日移された霊柩車の中で棺から死体が消えており、死を賭けた最後の脱出として話題になる。その場に居合わせた西之園萌絵は、持ち前のミステリー好きと県警本部長を叔父に持つ特権を利用して捜査に乗り出す。そして次は、ビル解体工事現場での脱出ショーを成功した直後、匠幻の弟子の有里ミカルが殺された。 いつもは早とちりで、結局犀川助教授が全てを明らかにするのだが、今回は萌絵が事件を解決する。と思ったら、やはりどんでん返しがあった。鍵は、冒頭に登場する少女だ。 それにしても、最初に出てきてその後音信不通になった萌絵の友人が巻き込まれたらしい事件はどうなったんだろう。というわけで、この作品は奇数章だけでできてている。こちらの事件は、偶数章だけで書かれているんだろうか。気になる。こうして、次々と読んでしまうのだ。 |
夏のレプリカ 2004年9月20日(月) |
前作、「幻惑の死と使途」は、西之園萌絵が高校時代の友人簑沢杜萌と再会するところから始まるが、この作品はその後簑沢杜萌が遭遇する誘拐事件。時間的に同時進行しているので「幻惑の死と使途」は奇数章、こちらは偶数章だけで構成されているが、警察が両方の事件に関わっているというだけで直接関連はない。 簑沢杜萌が萌絵と別れて帰宅すると、家族の姿が見えず、翌朝一人の男が家に飾ってある仮面をつけて現れ、拘束されて長野の別荘へ向かわされる。そこには両親と姉が拉致されていた。ところが、着いてみると車の中に誘拐犯の男女二人の死体があり、それを見た男は車で逃げ出した。そして、家に戻ると盲目の兄の姿が消えていた。萌絵は前作の事件と試験で手一杯で、警察の捜査も家族が何か隠しているようで進まない。 以前もあったが、今回は全編叙述トリック。後で読み返せばなるほどとは思うが、これは何?ここがちょっと引っかか るなというところが後で効いてくる。このシリーズにしては珍しく後味が良くないのだが、最後に救いがあったのは良かった。人間って大人になると変わるものなのか、それとも最初からそうなる要素を持っているものなのか・・・。 |
今はもうない 2005年1月1日(土) |
この作品は、休暇をとって岐阜の別荘へ向かう車の中で、西之園萌絵が犀川助教授に未解決の密室殺人事件について話すプロローグから始まる。少し以前の事件で、その時萌絵もいた別荘の近くで起こった事件だ。犀川が登場するのはプロローグ、幕間、エピローグのみで、事件の本編は笹木という男性が語り手となって進んでいくという珍しいパターンだ。 事件は、別荘の三階部分の映写室と隣り合った娯楽室で招待されていた姉妹が一人ずつ死んでいて、それぞれの部屋は密室になっていたというもの。昼散歩に出ていた中年にさしかかった独身官僚の笹木は、道に迷った西之園嬢と知り合い、その魅力に心を奪われて一緒に別荘に帰る。西之園嬢も泊めてもらうことになったその日の夜、事件は起こった。 密室殺人のトリックもあるが、この作品の面白さは叙述トリックにある。最初から最後まですべてトリックで、しかも誤認させるための小細工があちらこちらにちりばめられている。ヒントを挙げるとそれ自体が回答になってしまうので、この感想文に散らしておいた。 |
数奇にして模型 2005年8月1日(月) |
M工業大学の大学院生寺林高司と上倉裕子は8時に実験室で会う約束をしていた。寺林はすぐ近くの市公会堂で行われていた模型マニアのイベントに参加していて、約束の時間間近に控え室を出ようとして何者かに殴られる。上倉は家庭教師のバイトが早く終わったので買物などをして実験室に戻り、寺林を待っていた。9時頃帰ろうとした河島助教授が実験室を覗くと上倉が殺されていた。こうして殺人の容疑をかけられた寺林は、翌朝控え室の奥に倒れているのが発見され、その部屋にはイベントでモデルをつとめた女性の首なし死体が横たわっていた。このイベントに参加していた作家の大御坊が犀川の中学・高校の同級生であり、西之園萌絵の親戚であったことから、またまたSMコンビが事件の捜査に関わることになる。 密室殺人の謎、首なしの謎、連続殺人か別々の事件か、謎は多い。この作品ではオタクの世界が描かれているが、殺人の動機は単純なものだが、そこにオタクの意志が加わることで事件が複雑になっている。結末が意外なものだが、後で読み返してみて、そう推測できるように表現されていないので、叙述物としては少しどうかと思う。 |
有限と微小のパン 2006年8月4日(木) |
N大学工学部4年生の西之園萌絵は、父親同士が友人であった日本最大のコンピュータ・ソフト会社ナノクラフトの若き社長塙理生哉の招待を受け、同じゼミの牧野洋子、友人の反町愛とともに長崎のナノクラフト所有のテーマパーク・ユーロパークを訪れる。その頃、ゼミの犀川創平助教授は学会のため東京へ来ており、横浜の妹を訪ねた帰り、新幹線の中で天才プログラマである真賀田四季博士から電話を受ける。萌絵の危険を察知した犀川は、那古野の自宅から車で長崎へ向かった。 萌絵はユーロパークの不思議な空間で塙理生哉と会い、そして真賀田博士と再会する。その後萌絵たちは殺人事件を目撃することになる。亡くなったのはナノクラフトのプログラマ松本。そして、彼女達を案内した社長秘書の新庄、副社長の藤原と続けて殺されていく。 ヴァーチャルリアリティがモチーフとなっており、「すべてはFになる」の真賀田四季が登場したことで、難解な雰囲気となった。難解というのは事件とか推理とかではなく、このシリーズ特有の犀川や真賀田博士によって繰り広げられる思弁性のほうだ。事件の背景にはかなり大がかりなトリックがあるが、殺人事件の真相そのものは取るに足らないもので、犀川もあえて追求しない。 「私、最近、いろいろな矛盾を受け入れていますのよ。不思議なくらい、これが素敵なのです。宇宙の起源のように、これが綺麗なの」「その言葉こそ、人類の墓標に刻まれるべき一言です。神様、よくわかりませんでした・・・ってね」 最後にもう一つどんでん返しがあって、S&M(犀川&萌絵)シリーズの最後を飾るにふさわしい充実した作品だった。 |
黒猫の三角 2007年9月12日(水) |
古いアパート阿漕荘に住む探偵・保呂草潤平は、アパートの大家で隣接する広大な桜鳴六角邸の所有者の娘・小田原静江から相談を受けた。妙な手紙を受け取ったのだという。封筒の中には、三年前の七月七日十一歳の小学生が、二年前の七月七日二十二歳の大学生が、一年前の六月六日三十三歳のOLが殺された、「ゾロ目殺人事件」の新聞記事のコピィが入っていて、今日六月六日は静江の四十四歳の誕生日なのだった。保呂草は、阿漕荘に住む女装癖のあるN大生・小鳥遊練無、惚れ症の女子大生・香具山紫子をバイトに雇って、桜鳴六角邸で催された静江の誕生パーティを監視する。しかし、外からも見張り、内からも衆人環視の密室で静江は殺されてしまう。愛知県警の担当警部・林の元妻で、桜鳴六角邸の敷地内の離れ無言亭に住む瀬在丸紅子は林や保呂草たちを呼んでパーティを開いて推理しようとする。 犀川助教授と西之園萌絵が活躍するS&Mシリーズを全て読み終えたので、今度は瀬在丸紅子のVシリーズ。舞台は同じ那古野市。相変わらず登場キャラクターがユニークでおもしろい。紅子や犯人には、犀川や真賀田博士の思考パターンが重なるところもある。ミステリーとしては、プロローグからひっかけてくれている。ただ、場をコントロールできる人物が犯人かなという予想は当たっていた。 |
φは壊れたね 2008年8月24日(日) |
C大学大学院生の山吹早月は、大学時代の友人舟元のマンションに誘われた。舟本が買物に出ている間、二人の女性が訪ねてきた。上の町田という友人の部屋を訪ねたが、鍵がかかっているので合鍵で開けてほしいという。舟本は臨時の管理人として鍵を預かっていた。山吹が部屋のドアをあけると、空き箱が崩れてきた。訪ねてきた二人の女性、N芸大生戸川と白金が部屋にはいると、町田が手首を縛られてYの字につり下げられていた。密室での不可解な姿の殺人。そして、部屋の様子はビデオで撮影されており、そのテープには「φは壊れたね」というタイトルが書かれていた。山吹は友人のC大学生海月及介、後輩の加部谷恵美と謎解きを始める。 C大学の助教授となった国枝桃子、N大学大学院生なのになぜかC大学に来ている西之園萌絵やN大学助教授犀川創平のS&Mシリーズのメンバーも登場するが、この作品では脇役。探偵役は、無口で超合理主義者らしい海月君。キャラクターがおもしろくて楽しく読めたが、解決がややあっけない感じもする。 |
四季 春 2012年8月19日(日) |
真賀田四季は、三歳のころには父の書斎の本を読み、5歳には語学をマスターし、父が教授をしている大学の図書館で過ごしていた。四季の叔母が婦長を務める病院で、看護婦が殺された。長い間入院している《僕》の言葉で、四季は犯人が分かったようだ。 顔に包帯を巻いて入院している《僕》と、いつも四季と一緒に行動している《僕》がいて、すぐわかることだが、四季の兄と、四季の脳が休息をとる間活動するために作り出した別人格だ。S&Mシリーズ「すべてがFになる」に登場する天才エンジニア真賀田四季の幼少時を描いたサイドストーリー。西之園萌や瀬在丸紅子も登場して、シリーズ全体の人物関係を想像させるし、真賀田四季の運命も予兆させている。 |