森絵都 |
アーモンド入りのチョコレートのワルツ | つきのふね | カラフル | 風に舞いあがるビニールシート |
アーモンド入りチョコレートのワルツ 2006年2月3日(金) |
「子供は眠る」:章くんの別荘にいとこ5人が集まって過ごすのがぼくらの夏だった。だけど、1つ年上の章くんの命令に次第に不快感を感じるようになる。水泳もほんとうはもっと速いのに
章くんにはわざと負けるようにしている。智明もナスも章くんに逆らったりしたら次の年からは来れないということを知っていて、自分を隠していた。 「彼女のアリア」:不眠症に陥ってしまって、学校の球技大会を逃げだして今は使われていない旧校舎に入って行くと、ピアノの音が聞こえてきた。不眠症のために聞いているバッハの「ゴルドベルグ変奏曲」だった。弾いていた藤谷りえ子も不眠症だということで話をするようになり、そのうち毎週会って藤谷のとんでもない家庭の境遇を聞かされることになる。 「アーモンド入りチョコレートのワルツ」:ピアノの絹子先生は魔女みたいな女性で、人見知りのわたしも「長いおつきあいをしたいわね」と思った。ある日ステファンというフランス人のおじさんが現れた。どこかサティみたいな感じの人。そのうち、レッスンのあとでわたしと変わり者の君枝と絹子先生とサティの叔父さんの4人でワルツを踊るのが、夢みたいな時間になって行った。だけど、そんな時間はいつまでも続かなかった。 最初の作品はシューマンの「子供の情景」、最後の作品はサティの「童話音楽の献立表」と、それぞれの作品はピアノ曲と関連づけられている。久々にさわやかな気分になれた。「七月のカレンダーをビリリとやぶって、今年も、再会の夏が来た。」といったあたりもいい表現だ。路傍の石文学賞受賞作。 |
つきのふね 2006年7月28日(金) |
中学生のさくらは、最近人間にくたびれている。親友の梨利とは、ある出来事をきっかけに互いに無視している。さくらは、植物がうらやましいと思うような時は、智さんに会いに行く。智さんはおいしいミルクコーヒーを入れてくれ、そして全人類を救う宇宙船の設計を仕事にしている。そんなさくらに、梨利に夢中でいつもつきまとっていた勝田くんが梨利とのわけを聞いてくる。そのうち、さくらを尾行した勝田くんも智さんの部屋に入り浸るようになる。勝田くんはさくらと梨利をとりもとうとするが、さくらには梨利を裏切ったという思いがあったし、梨利はさくらと違って弱いからと
言うだけだった。そのうち、智さんの様子がますますおかしくなっていき、さくらと勝田くんはあれこれやってみたあげく、智さんの親友でオーストリアに留学しているツユキさんという人に手紙を書く。 さくらと梨利の心の行き違いをどうにかするだけでも大変なのに、中学生が大人の心の病に関わるのは少し無理があるように思うが、いろいろな伏線が最後に一つになって、さくらと梨利の問題も、智さんの問題も明らかになるのはドラマチックでおもしろい。 「人より壊れやすい心に生まれついた人間は、それでも生きていくだけの強さも同時に生まれもっている。」という露木さんの手紙の言葉や、「おばあちゃんはそうねーといいました。それはきっとこの世にわ小さくてもとうといものがあってそうゆうものがたす けてくれるのかもねーといいました。ぼくはつゆ木くんがすきです。・・・ぼくわ小さいけどとうといですか。ぼくはとうといものですか?」という幼い日の智さんから露木さんへの手紙。最後に泣かせるツボを持ってきたのは、少しあざとい感じもするけど。 野間児童文芸賞受賞作。 |
カラフル 2007年10月17日(水) |
死んだはずのぼくの魂の前にいきなり天使があらわれて、「おめでとうございます。抽選に当たりました!」天使の言うには、ぼくは大きなあやまちを犯して死んだ罪な魂なので輪廻のサイクルから外されるのだが、再挑戦のチャンスが与えられたということだ。下界にいるだれかの体を借りて「ホームステイ」して修行を積み、前世の記憶をとりもどして犯したあやまちの大きさを自覚した瞬間にぼくの魂は昇天し、輪廻のサイクルに復帰するのだという。そういうわけで、ぼくは自殺を図った中学生小林真になって生まれ変わった。真はチビであることにコンプレックスがあってクラスで浮いていて、初恋の相手の援助交際、母の不倫、利己的な父の本性を知り、自分のシークレットブーツが兄に見つかってからかわれ、絶望して自殺したのだった。ぼくは、小林真として学校へ通い、初恋の相手桑原ひろかやなぜかつきまとうチビ女の佐野唱子、親しくなった早乙女くん、そして父、母、兄の満との生活を始める。だれもが、真が見た姿とは別の思いを抱えて生きていた。真自身も。 ぼくがだれで、犯したあやまちはなんなのか、それは最初予想したとおりだった。産経児童出版文化賞受賞作。 「人は自分でも気づかないところで、だれかを救ったり苦しめたりしている。この世があまりにもカラフルだから、ぼくらはいつも迷っている。どれがほんとの色だかわからなくて。どれが自分の色だかわからなくて。」 |
風に舞いあがるビニールシート 2009年5月27日(水) |
「器を探して」:弥生は人気パティシエ・ヒロミの専属秘書。イブの日も、気まぐれなヒロミの命令で、美濃焼の器を探しに多治見に来ている。デートの約束をしていた高典からは頻繁に電話があるが、弥生は器探しに気持ちをスライドさせる。 「犬の散歩」:三十過ぎてスナックで働く恵利子。捨て犬や放浪犬を預かり、里親を探すボランティア活動の、犬のえさ代稼ぎのためだった。 「守護神」:ホテルでバイトしながら大学に通う祐介は、社会人学生に限ってレポートを代筆をしてくれるというニシナミユキにレポートを頼む。去年はなぜか断られていた。 「鐘の音」:本島潔は二十五年ぶりに琵琶湖近くの仏像修復工房を訪ねた。潔が工房を去ったのは修復を請け負った不空絹索観音像のせいだった。 「ジェネレーションX」:通販雑誌の編集者野田は、掲載した商品のクレームのため販売元の石津と謝罪に赴くことになった。客先へ向かう車の中、四十代目前の野田の横で、若い石津は次々と私用の携帯をかけ始める。 「風に舞いあがるビニールシート」:外資の投資銀行から国連難民高等弁務官事務所に入った里佳。職場結婚したものの価値観のすれ違いから別れたエドが、任地で犠牲になった。 裏表紙には「自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きている人々を描いた…」とあるが、その割に読後感にさわやかさがないのは、見方を変えれば取り憑かれた人々を描いているから。1編1編バラエティがあって結構おもしろかったが、個人的には説得力が感じられず、共感はできない。直木賞受賞作。 |