水森サトリ

でかい月だな      

でかい月だな 2009年3月28日(日)
 友達の綾瀬にガードレールから蹴り落とされ、何度かの手術とリハビリを終えて、ぼくは一年遅れの中学二年生として学校に通い始めた。綾瀬は何で蹴ったかわからないと言って泣いていたという。バスケ部の仲間のヒカルや両親や姉は綾瀬を悪く言うが、ぼくは何も考えたくなった。学校では科学オタクの中川の旧理科準備室に入り浸ったり、邪眼の持ち主だというかごめに興味を持ったりする。やがて、やつらに脳を乗っ取られてしまうという悪夢を見たり、空を魚が群れが飛ぶ幻視を経験したりするようになるのと重なるように、周囲の様子がおかしくなってくる。綾瀬を批判していた家族が態度を軟化させたり、かごめを無視していたクラスの女の子が謝ったり、町中で人々が優しくなってきた。周りの異変に苛立つぼくは、無気力に生きてきた自分のほんとうの気持ちに気づいた。
 SF的に展開していって、そちら着目して読むと尻すぼみな感じがしてくるが、それは深く考えることはないだろう。成長すればいろんな意味で変化し、前と同じではいられない。それぞれがそれぞれの道を行くことになるんだと、少しセンチメンタルな感想を持った。小説すばる新人賞受賞作。