宮内悠介

彼女がエスパーだったころ カブールの園 あとは野となれ大和撫子  

彼女がエスパーだったころ 2018年6月21日 (木)
 ジャーナリストの《わたし》は、いわゆる“疑似科学”にまつわる人々を取材する度に、事件に巻き込まれてしまう。「百匹目の火神」では火をおこすことを覚えた猿を巡る共時性論争、「彼女がエスパーだったころ」はスプーン曲げ、「ムイシュキンの脳髄」はロボトミーから着想した“オーギトミー”、「水神計画」では放射能に汚染された水を言葉で浄化するという団体の環境テロ、「薄ければ薄いほど」では〈量子結晶水〉という水を用いる“終末医療”施設。「佛点」ではアルコール依存症者のサークル。
 題材的にはおもしろいはずなのだが、SFなんだかミステリーなんだかいまいちピンとこなかった。吉川英治文学新人賞受賞作。本当だろうか。

カブールの園 2020年7月18日 (土)
 「カブールの園」:日系三世のレイは、小学校では仔豚と呼ばれ、鞭で打たれて豚の鳴きまねをさせられ、家では母に優等生としての作り話をしていた。大学の仲間と起業したIT企業でプログラムを書き、医師のカウンセリングを受けている。休暇をとって日系人収容所へ寄ってみればと言われ、久し振りに母に会って、ヨセミテ公園へ向かう。
 「半地下」:日本から逃げた父に連れられてアメリカにやってきて、そのうち姉と二人半地下のアパートで暮らすようになる。
 興味の持てないまま読んでいたので、印象がぼやけて何だったのかよくわからない。ストーリーとしては「半地下」がおもしろかったが、何となく映画を見終わったような印象だ。「カブールの園」は三島賞受賞作。

あとは野となれ大和撫子 2021年7月17日 (土)
 父の仕事で中央アジアで暮らしていたナツキだが、空爆で両親を失い、かつてアラル海だった土地にできたアラルスタン自治共和国の後宮に引き取られた。後宮と言っても女性の高等教育機関としての役割を果たしており、ナツキも技術職を目指していた。ある日、大統領のアリーが狙撃され、周辺のカザフスタン、ウズベキスタンなどとのパワーバランスが微妙になり、政府や議会の男たちは逃げだしてしまった。後宮のリーダー格のアイシャが故大統領の遺志により大統領に就任し、ナツキも国防省に就任して、反政府組織イスラム運動の攻撃に備えることになってしまった。
 若い女性たちの政治冒険物語という感じだろうか。終わってみれば大団円という感じでおもしろかった。SFというわけではないと思うが、星雲賞受賞作 で直木賞候補作。