宮下奈都

スコーレNo.4 羊と鋼の森    

スコーレNo.4 2010年8月11日(水)
 麻子の家は古道具屋。小さい頃から店の中で過ごしてきた。父が値踏みするときの目が苦手だ。母は若い頃、華道も茶道もかなりの腕前だったらしいが今は平凡な主婦。可愛くて自分の意見を伝えられる妹の七葉に対して、麻子は地味で目立たない子と思っていた。中学での束の間の恋、高校の時は従兄弟に対する思いを経験し、大学、社会人と成長していくが、いつも七葉へのこだわり、父や母の行き方に対する密かな反感があった。
 祖母のしつけ、そして骨董品に囲まれて育っただけに、繊細な感受性が心地よい。しかし、麻子の恋愛相手として表れる男性があまりにティピカルで都合が良過ぎるし、あっさりと社内恋愛に落ちて行くのも安易な感じがする。しかしそれが、あの人が結局これなのという世の中の現実でもある。おもしろかった。

羊と鋼の森 2018年4月24日(火)
 たまたま教室にいて、先生に調律師を体育館に案内するよう言われ、調律師が鍵盤をたたく音から森の匂いがして、調律師になろうと思った。ピアノを弾いたこともない、音楽も聴かなかった僕は、紹介された専門学校に二年間通い、その調律師板鳥さんが勤める楽器店で働くようになり、先輩の柳さんについて仕事を覚えていく。ロックバンドでドラムをたたいている柳さん、元ピアノニストで調律師になった冷めた感じの秋野さん、そして著名ピアニストの調律も任される板鳥さんに教えられ、柳さんのお客さんで、異なった演奏をする双子の姉妹と関わることで、調律師として少しずつ成長 していく。
 主人公の過剰にセンシブルな言葉は男性にしては恥ずかしすぎる少女趣味だが、音楽を、ピアノを、音をこんなに言葉で表現できるのかと感心したし、ストーリーもおもしろかった。羊はハンマーのフェルト、鋼は弦のことだ。本屋大賞受賞作。