宮尾登美子 |
一絃の琴 |
一絃の琴 2007年9月26日(水) |
土佐藩留守居組の沢村家の娘苗が五歳のとき、毎年秋にやってくる絵師の弾く一絃琴に涙を流し、その絵師亀岡に一絃琴を作ってもらって習い、やがて京都から戻ってきた門田宇平の塾へ通うようになる。宇平が病でなくなり、その一周忌で高弟の一人松島有伯の演奏に心打たれた苗は有伯のもとに通いつめて弟子入りを許され、厳しい稽古に励むことになる。有伯の死後一絃琴を封印し、市橋家へ嫁いだ苗だが、有伯の琴白龍と出会ったことから再び一絃琴にへの思いをよみがえらせたのは三十半ばのことだった。夫に一絃琴の稽古を願い出、夫の勧めから塾を開くと、市橋塾は高知市の上流家庭子女の教育の場としての地位を持つようになる。その市橋塾を八歳の岳田蘭子が訪れる。器量よしで能力もあり、周囲にほめられて育ってきた蘭子はやがて許状を許され、市橋塾の跡取りと目されるようになる。 土佐に伝わる一絃琴をめぐる、性格も琴への思いも対照的な二人の女性 の生き様を描いた作品。幕末、明治、大正、昭和と進む中、土佐の風土や士族の生活がしのばれて、興味深かった。直木賞受賞作。 |