宮本輝

螢川      

螢川 2007年4月19日(木)
 「泥の河」:昭和三十年、大阪湾に注ぐ川の橋のたもとにあるやなぎ食堂。信雄はその小学二年の一人息子。ある日、信雄は雨の中たちつくす少年を見かける。橋の下につながれた舟に住んでいる、同い年の喜一だった。喜一は母と姉の銀子と暮らしていた。「夜は、あの舟に行ったらあかんで」と言われたが、信雄は姉弟と母に心を惹かれていく。太宰治賞受賞作。
 「螢川」:昭和三十七年の富山、中学生の竜夫は幼馴染みの英子が気になりだしたが、級友の関根も英子への思いを公言していた。しかし、事業に失敗した父の重竜が脳溢血で倒れ、竜夫の生活に暗い陰が射し始める。四月になって大雪が降り、竜夫は建具師の銀蔵爺に聞かされていた、いたち川の上流の螢の大群を見に行こうと思う。昭和52年の芥川賞受賞作。
 ほのかな性や死の影に揺れ動く少年の心象を、抒情的に描いた作品。時代背景にもよるが、子供の頃見たようなモノクロの映画を見ているような印象と、しっとりとした読後感を覚える。