三輪太郎

あなたの正しさと、ぼくのセツナさ      

あなたの正しさと、ぼくのセツナさ 2010年8月21日(土)
 キャンパスで小学時代の友人の姿を見かけ、あとを追うと株式研究会だった。酒田罫線法という相場理論を教えられ、証券会社に口座を作って売買するうちに億を超え、見込まれて顧問の投資会社に就職した。日経平均が三万円突破したバブルの頃だった。九年たってある日、修一が亡くなったという知らせを受けた。四年前にディーラーをやめて宗教学を勉強して、カンボジアで亡くなったのだという。その頃から相場との呼吸がズレだし、辞表を出して、修一が最後に見ようとしたものを自分も見てみたいと、カンボジアへ旅立つ。
 株式市場の分析で時々呪文のような言葉を見かけることがあるが、その一つが罫線法。と言っても相場小説ではない。前半はカンボジアの観光記という感じだが、次第にこの地の文明や歴史にのめりこみ、得体のしれない現地人と関わっていく様子がおもしろいし、最後のポル・ポトや現地人のソヴァンとの対峙は圧巻だ。日経小説大賞佳作受賞作。