三浦しをん

月魚 格闘する者に○ まほろ駅前多田便利軒 舟を編む

月魚 2005年1月20日(木)
 本田真志喜はまだ若いが老舗古書店「無窮堂」の店主、瀬名垣太一は一つ年上の幼馴染で神田でやはり古書の卸売りを営んでいる。兄弟のように育った二人は、ある出来事の後、お互い求めながら心に抱えたものが互いを隔て 、何か用事を作って時々瀬名垣が無窮堂を訪ねるという関係が続いている。その用事という、瀬名垣の古書買い付けに地方の村を訪ねると、地元の古本屋と競り合わされることになる。
 美文調の文章、微妙な二人の関係、何か妖しい世界だが、それらしい場面は出てこないし、古書の世界といい、美しい物語を見ているような印象だ。 幼馴染の友人達とのやりとりも青春ぽくていい。

格闘する者に○ 2007年2月23日(金)
 可南子は就職戦線に向かう大学生。だが、仲良し三人組の砂子、二木君ともども、やる気がない。漫画が趣味なので出版社を受けようと、理不尽な試験や面接に立ち向かう。そんな可南子を癒してくれるのは、近所の七十歳くらいの書道家西園寺さん。一方、可南子の父は国会議員で普段は家にいず、可南子は古くて広い家に義母と弟旅人と暮らしている。親族会議が開かれ、親族や後援会が集まり、跡継ぎ選びで紛糾したりする。そんな中、旅人が家出して義母は寝込んでしまう。
 可南子の就職活動と家族の話題が並行して進んでいくが、美人の砂子、なぜか女二人と中のいい二木君、アルバイト先の独身マスターなど、登場人物のキャラクターも面白く描かれている。最近クスリと笑わせる才気走った文章を書く若い女性作家が多いが、この人もその一人。「月魚」を読んだ時はそっちの世界の人かと思ったが、この作品は作者の等身大の世界のようだ。冒頭の童話らしきものはなんだろうと思わせるが、読んでいくとなるほどとわかる。タイトルの由来も面白い。

まほろ駅前多田便利軒 2009年3月3日(火)
 町田市と思しき東京都南西部の町まほろ市、その駅前のビルにある便利屋多田便利軒。老いた母親の見舞い代行、帰省の間の犬預かり、バスの間引き運転の監視と、仕事は繁盛している。そんなる日、多田は高校時代の同級生行天と再会した。行くあてのない行天が事務所にころがり込み、いわくありげな二人の生活が始まる。高校時代一言も発しなかった変人の行天は、仕事の度に着いてくるが何もしない。そして、なぜかトラブルに巻き込まれてしまう。
 おもしろかったが、まあ普通。流行りの小説のいろんなパターンの寄せ集めという感じがしないでもない。直木賞受賞作。三浦しをんという作家、よくわからない。

舟を編む 2015年7月31日(金)
  玄武書房辞書編集部の荒木は、予算も人員も削られる中、定年を迎えて後継者を探していた。そんな時、部員の西岡が探してきたのが営業部にいる馬締だった。馬締は古い下宿屋の1階全部を自分の書庫にしているくらいの本好きだった。国語学者の松本先生、嘱託として残る荒木、契約社員の佐々木さんとともに、新辞書「大渡海」の編纂に携わることになった。そして、大家のおばあさん一人になった下宿では、孫の美しい香具矢と出会った。
 辞書作りの世界がちょっとユーモラスに描かれていて、登場人物のそれぞれちょっと、あるいはかなり変でおもしろい。辞書が完成を迎える頃には十数年の時がたっているというのは驚きだった。本屋大賞受賞作。