三浦明博

滅びのモノクローム      

滅びのモノクローム 2007年6月12日(火)
 仙台の広告代理店のCM制作部員日下は、神社の骨董市で英国製のオールドリールを見つけ、入っていた柳行李ごと手に入れる。その柳行李に入っていた缶の中に映写機にかけられないくらい古い16ミリフィルムが入っていて、会社でその切れ端を確かめると、フライフィッシングをしているシーンだった。日下はこのシーンを競合プレゼンが迫った政権党のCMに使うことにし、デザイナーの大西に再現を依頼した。その頃、そのリールを売った花森月は、日光の実家で祖父の進之介に柳行李を取り戻すように言われ、進之介に取材していた雑誌記者苫米地とともに買った人物を探し出すことにする。苫米地が追っているテーマは、戦時下の在日英国人二世たちだった。
 物語の進行とともに犯罪者が現れ、犯行が行われるので、犯人探しやトリックの謎解きのミステリーではない。謎解きらしいのは、フィルムの欠けた部分を探し出したところと、もう一つのフィルムに行き当たった最後のところぐらい。何より最大の謎は、犯行者側がそのフィルムの存在とありかをなぜ知っていて、それが大西の手に渡ったことをなぜすぐさま把握できたかということ。唐突で、ストーリー上かなりおかしい。2時間ドラマのように安易な気がする。作者は戦時体制の恐ろしさと、現在そんな風潮が現れ出していることを訴えたいようだが、それはミステリーの仕事ではない。江戸川乱歩賞受賞作だが、本格ミステリーの始祖江戸川乱歩の名にふさわしくはない。乱歩賞に限らず、そんな受賞作が多いのは確かだが。