三崎亜紀

となり町戦争      

となり町戦争 2007年1月23日( 火)
 舞坂町の広報まいさかに、「となり町との戦争のお知らせ」が載っていた。開戦日の九月一日、国道を通ってとなり町を抜けて職場のある地方都市に着いても、何事もなかった。そんなある日、再び広報まいさかに目をやると「戦死者12人」という記述があった。目に見えないところで戦争は始まっていたのだった。そして、郵便受けに「舞坂町役場総務課となり町戦争係」から、「戦時特別偵察業務従事者の任命」という通知が届いた。「戦争」というのは、町の活性化のため、国の定める規則にのっとって相手と契約を交わして、外部コンサルティング会社の企画に基づいて行われる事業だった。戦局が進み、僕は役場の香西さんという女性と結婚して、となり町の「分室」で偵察業務を行うことになる。
 「戦争というコトバを聞くだけで、僕たちの頭の中に、普遍化されたモノクロの映像が浮かんでくる。・・・それらの映像は、僕たちに思考する間も与えず、戦争を戦争を否定させる力を持っている。その反面、いわゆる《世間》では、「正義のため、愛する人のために」という大義名分をうけて戦うことを正当化する、という図式がまかりとおっている。」
 「僕たちは、自覚のないままに、まわりまわって誰かの血の上に安住し、誰かの死の上に地歩を築いているのだ。」
 重いといえば重いテーマなのだが、役所の書式やら業務推進手順など、笑わせる部分も多い。香西さんと過ごす日常とふれあいはミステリアスでセンチメンタル。