湊かなえ

告白 望郷 豆の上で眠る 贖罪
ユートピア      

告白 2010年6月5日(土)
 終業式の日、女性教師の森口は教員を退職することを生徒たちに告げた。プールで溺死した4歳の娘愛美は、このクラスの生徒に殺されたと語り、その二人AとBを告発し、二人の牛乳にHIV感染者である愛美の父の血を混入したと言って去った。その後は関係者の告白が続く。クラス委員美月によるその後のクラスの様子。直樹の母親の日記。直樹の告白。修哉の告白。
 事件の真相が最初に告げられるので、どう展開していくのかと思っていた が、美月の告白と修哉の告白、直樹の告白と母親の日記、それぞれ突き合わせると、心の闇が明らかになってくる。ラストは衝撃的だった。 映画は年少者による殺人の描写のためR15+指定となっているが、教師による生徒への復讐のほうが子供には重いように思う。本屋大賞受賞作。

望郷 2016年4月2日(土)
 「みかんの花」:白綱島市閉幕式に、作家として有名になった姉が出席した。学校の先生だった父が同じ職場の若い女性を車に乗せて事故死し、いじめにあっていた姉は半月ほど居候していた若い男と駆け落ちしていた。
 「海の星」:父がある日突然行方不明になり、苦しい家計を助けるために釣りをしていたら、おっさんが魚をくれ、それ以来家に魚やお菓子を持ってくるようになった。ある日、おっさんがご主人は死んだと区切りをつけて、と言うと母激怒した。
 「夢の国」:「屋敷の奥様」と呼ばれる祖母の意向で、島から出ることができず、クラスで話題の東京ドリームランドへも行くことができなかった。しかし、教育実習で同じようにドリームランドを楽しみにしていた同級生と再会する。
 「雲の糸」:母が父を殺したためいじめられて育った島を出て歌手として成功したが、ある日いじめられていた男から電話があり、親の会社の創立記念日に出てほしいということだった。母も姉も世話になっているので、断ることができなかった。
 「石の十字架」:島に転校してきた私の初めての友達になったのは、クラスで仲間はずれにされている子だった。その子に、観音様の中に隠れキリシタンの十字架があるから一緒に探そうと誘われた。
 「光の航路」:父の後を継ぐように学校の教師になったが、いじめの問題で悩まされることになった。家が放火にあい、煙を吸って入院していると父の教え子だったという男性が見舞いに訪ねてきた。彼は、父にわだかまりを持つきっかけとなった船の進水式での出来事の当事者だった。
 作者の出身地である因島をモデルにした白綱島を舞台に、生まれ育った人、移り住んできた人、出て行った人たちの物語。背景に何らかの事件があり、長い間謎のままだった真実が明らかにされる。そこには親子の愛情があった。「海の星」は日本推理作家協会賞受賞作。「夢の島」は、珍しく笑える仕掛けがある。

豆の上で眠る 2018年1月1日 (月)
 結衣子が小学一年の時、二歳上の姉、万佑子が行方不明になった。神社の裏山で一緒に遊んで、一人帰る途中で、途中の店のゴミ入れに一緒に食べたアイスの容器が捨ててあり、スーパーには帽子が落し物として届けられ、白い車に乗っていたという目撃情報もあった。結衣子は、母親に猫探しを口実に近所の家を探るよう言われ、学校では仲間はずれになっていく。二年後、神社で少女が保護された。衰弱していて、記憶喪失になっていたが、結衣子を見て「ゆいこ、ちゃん」と言った。結衣子はその少女が万佑子だとは思えなかった。自分のせいで怪我した目の縁の傷もなかった。思い出や好みなどを聞いてかまをかけるのだが、その少女は正確に答えた。母方の祖父がDNA鑑定を提案したが、結果は問題なかった。
 よくある入れ替わりものだが、最後に一ひねりあっておもしろかった。

贖罪 2018年5月30日 (水)
 空気がきれいというだけが取り柄の田舎の町に大手の工場が進出して、新しい住民も増えた。紗英、真紀、由佳、晶子のクラスにも工場長の娘エミリが入ってきた。地区の近い5人でよく遊ぶようになったが、お盆休みに学校で遊んでいる最中、エミリが作業服の男に手伝いに連れ出され、探しに行くと死んでいた。エミリの母は4人に、「あんたたちを絶対許さない。時効までに犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい。」と言って東京へ去った。そして、成人した4人は連鎖反応でも起こしたかのように、それぞれ殺人を犯してしまう。
 最後まで読むと、エミリの被害も4人の殺人も、発端は一人の人間の性格と行動によるものだったことがわかる。アメリカのエドガー賞ノミネート作品。

ユートピア 2018年8月12日 (日)
 太平洋を望む港町、鼻崎町。堂場菜々子は商店街の仏具店に嫁いだ。娘の久美香は交通事故に逢い、車いすで小学校に通っている。夫が日本有数の食品加工会社、八海水産の工場に勤めている相場光稀は社宅のマンションに暮らして、雑貨・リサイクルの店を営んでいる。星川すみれは、美大時代の同級生宮原健吾に誘われて、高台の岬タウンの家で陶芸の仕事をしている。三人は、健吾が発案した商店街祭りの実行委員として出会う。そして祭りの当日、無料サービスの食堂で火事があり、車いすの久美香を助けるため、光稀の娘、彩也子が額に傷を負った。すみれは、この事故をきっかけに車いす利用者支援の運動を立ち上げて、雑誌にも取り上げられて順調に売り上げを伸ばす。しかし、この町ではかつて八海水産の従業員が資産家の老人を殺して逃亡するという事件があり、その事件や久美香の足のことを絡めて、悪意に満ちた中傷が渦巻くようになる。
 いわゆる「イヤミス」と呼ばれる作風のミステリーで、当然読んでいて気分が悪い。 結末はちょっと意外で、さわやかと言っていいかブラックと言っていいかわからない。山本周五郎賞受賞作。