麻耶雄嵩

隻眼の少女 貴族探偵対女探偵 さよなら神様  

隻眼の少女 2013年5月1日(水)
 母を殺したのは父で、その父を突き落して殺した種田静馬は、自殺しようと地図にも載っていない栖苅村を訪れた。伝説のある龍ノ首と呼ばれる岩にまたがっていると、古風な装束を着た隻眼の少女に声をかけられた。御陵みかげといい、名探偵として警察関係には有名だった同じ名前で隻眼の母親のあとを継ぐべく、父の山科恭一に連れられて修行中だという。スガルと呼ばれる村を救う力を代々女系に受け継いでいる琴折家で、後継ぎの春菜が殺された。疑われた静馬をみかげは卓越した推理で救うが、その後も三つ子の姉妹、夏菜、秋菜、そして山科がこれされる。衝撃を受けたみかげと静馬は一夜結ばれ、その後みかげは事件を解決し、探偵としてのデビューを果たす。
 自殺を図った静馬は記憶を失い宮崎で暮らしていたが、旅番組で栖苅村が紹介されたのを見て記憶がよみがえった。ネットで調べると、みかげは探偵として大成したが事故で命を落としていた。再び栖苅村を訪れると、そこにみかげがいた。みかげの娘で、同じように探偵修行をしているという。そして、十八年前の事件の再来のごとくスガルの後継ぎ雪菜が殺された。母みかげの推理は間違っていたのか。
 ミステリーとしては反則のところがあるかもしれない。容貌や能力はともかく隻眼まで遺伝するのだろうかという素朴な疑問が、意外と真相に迫っている。日本推理作家協会賞・本格ミステリ大賞受賞作。

貴族探偵対女探偵 2017年2月3日(金)
 高徳愛香は大学を中退して五年、名探偵と名高い師匠に弟子入りして、師匠が癌で亡くなってから半年、探偵として独立して必死に働き、大きな事件も解決し、名前も少しは知られるようになってきた。しかし、学生時代の親友に誘われた別荘で殺人事件に遭遇して以来、行く先々で事件に会うたび髭面の自称探偵と名乗る男と出くわすようになる。しかも、この男、愛香を”女探偵”と呼び、自分では何もせず、運転手、料理人、メイドといった自分の使用人に推理させ、その度に愛香の推理を覆すのだった。そして、依頼人不明の高額な報酬につられてやってきた島でまたしても事件と髭面探偵に出会う。今回は使用人もおらず、愛香は自分の推理で事件を解決したのだが…。
 女探偵愛香が主役になっているが、実際の「貴族探偵」シリーズの1作で、愛香自身も実は…というのが結末。それにしても、殺された側が殺そうとしたのでトリックは殺された側がしかけたものとか、名前を入れ替えていたとか、どうしてそんなことがわかるのだろう。2014本格ミステリ・ベスト10国内ランキング1位の作品。

さよなら神様 2017年8月20日( 日)
 二学期に五年のクラスに転校してきた鈴木は、クラスの女の子のリコーダーが盗まれる事件の犯人の名をぴたりと当て、「僕は神様だから」と云い放った。俺、桑町淳が、隣の小学校の先生が殺されて、担任の美旗先生が疑われていることから、犯人の名前を聞くと「犯人は上林護だよ」と言った。幼なじみの市部始に誘われて入った久遠小探偵団の団員上林の父だった。情報通の丸山、霊感少女の比土のメンバーで調査を始めるのだが…。
 次から次と殺人事件が起こり、しかも被害者や犯人と名指しされるのが皆身近な人間で、最初に神様が犯人の名前を言い当てるものだから、言ってみれば後追い捜査をするだけ。この分では、そして誰もいなくなった…となるのではと思ったが。途中でえっと思うようなことが明らかになり、最後にやはりそして誰も…ということになるのだが。本格ミステリ大賞受賞作。まあおもしろかった。