松浦理英子

葬儀の日 親指Pの修業時代    

葬儀の日 2003年7月25日(金)
 以前読んだ「ナチュラル・ウーマン」はレズ、SMてんこ盛りの強烈な作品だった。
 「葬儀の日」は葬式に雇われる「泣き屋」とその商売敵「笑い屋」の、いわば川の両岸にあたる二人が惹かれ合う物語。「乾く夏」は、自殺願望の女子大生とその友人、優しい元恋人とをめぐるストーリー。「肥満体恐怖症」は、肥満を嫌悪する女子大生と肥満した上級生との寮生活での格闘を描いた作品。
 この作家にとっては、「SEX」が人間の関係をあらわす重要な契機であり、同性愛というのはあるいは自己愛や自己憎悪の反映で、SMというのは関係における征服や支配、それに伴う共感、一体感といったものを象徴しているようだ。「SEX」というものに非常に重要な意味性を持たせる人間もいるが、自分としては「それほどでも」と思う。

親指Pの修業時代 2005年6月7日(火)
 自殺した親友遥子の四十九日のすんだ夕方、右足の親指がペニスになった夢を見て昼寝から目覚めると、本当にそうなっていた。一美は素直で少し鈍感で可愛い女子大生。この親指Pがきっかけで、婚約している正夫が子供に見えてきて言い争いの末に狂乱した正夫から逃れ、隣家の盲目のミュージシャン春司に助けられて付き合いだす。そして、<フラワー・ショー>という性に関して特殊な人々の見世物一座に誘われ、春司とともに興行に同行することになる。
 <フラワー・ショー>は、変形したペニスを持つ繁樹、セックスすると全身に発疹が出る亜衣子、セックスすると眼球が飛び出る庸平、性転換した政美、膣の奥に歯が生えている幸江、シャム双生児の弟のペニスが出ていて自身のものは埋もれている保、その恋人映子というメンバーで、政財界人や地方の有力者に招かれて興行し、かなり多額のギャラを受け取っている。
 こんなメンバーとの興行に付き合いながら、素直で鈍感な一美は、いろいろな快楽を経験しながら、恋愛と性とかについて、冷静に分析していく。刺激的な題材のわりにこの辺が古典的な心理小説を思わせるが、作者によるとこれは小説を成立させるための形式でしかなくて、実は非性器的な、皮膚感覚の快楽を書きたかったのだそうだ。その辺はともかくとして、小説としてかなりおもしろかった。発表当時非常に話題になった、女流文学賞受賞作。