松家仁之 |
火山のふもとで |
火山のふもとで 2024年8月5日(火) |
一九八二年、ぼくは尊敬する建築家村井俊輔の村井設計事務所に入った。北青山にある事務所
は、毎年七月の終わりから九月の半ばまで、北浅間の青栗村にある通称「夏の家」へ移転する。各自仕事を抱えながら、この夏の課題は秋の「国立現代図書館」のコンペへの参加だった。先生は七十代半ば、昔のことをよく知っている事務長の井口さん、チーフ的な河原崎さんに小林さん、笹井さん、直接指導を受けている内田さん、雪子、先生の姪でアルバイトの麻里子.。高原の山荘で、穏やかで合宿のような生活を送る。 なぜか三十年前の物語が綴られていくが、一つには先生がフランク・ロイド・ライトの弟子という設置だから、もう一つは三十年後の「ぼく」の視点で語られているからだ。その辺が登場人物の呼び方に影響している。自然と設計というピュアな世界だが、ロマンスの場面になるとどこか村上春樹っぽくなるのがおもしろい。著者は元出版社勤務の編集者。これは五十代半ばの処女作で、読売文学賞受賞作。 |