町田康

くっすん大黒 きれぎれ    

くっすん大黒 2003年10月2日(木)
 パンクロッカーが作家になったというので注目されたことがあったが、作品自体はその経歴とはほとんど関係ない。
 「くっすん大黒」「河原のアバラ」の2作品が収められているが、どちらもどうしようもない中年男が、同じような境遇のもう少し若い男と一緒に飲んだくれては、ひょんなことから一緒にロードムービーするといった感じのストーリーだ。しかし、何といっても独特なのはその文体だ。「やれんよ。あきまへんの。いらんわい。あほんだら。あんけらそ。」これはたまたま関西弁みたいだが、妙につっかかるオヤジ風の古風な言葉つきが続くところは、野坂昭如風でもある。物語の展開は、この前読んだ牧野信一風でもある。つまり、下品なアバンギャルドという感じ。賞をいっぱいもらって、文学界では高く評価されているようだ。確かに読んでいておもしろいが、好みではない。単なる好みでいえば、スマートでセンチメンタルなものが好きだから、としか言えないが。

きれぎれ 2004年10月9日(土)
 主人公は老舗のぼんぼんだが、働きもせず「無頼」風の生活を送っている。見合いで狂態を演じて断られた相手が、才能が劣るくせに絵で成功した幼なじみと結婚してしまい、自分は腹いせにランパブの女と結婚する。そのうち母親が死に、遺産を相続できず、生活が立ち行かなくなって、借金に歩くようになる・・・。とストーリーをかいつまんでも何も伝わらなくて、現実と幻想の区別がつきにくいシーンの転がるような展開と、関西弁交じりのオヤジ臭いシャベリに妙に古い言葉や感じを取り混ぜた独特の口語的な文体、そして矜持と卑屈の入り混じった主人公の悪あがきがこの作家のスタイル。もうひとつの「人生の聖」のほうはさらに幻想的なシーンを強調したもの。
 芥川賞受賞作だが、あまりおもしろいとは思えない。というより、どうもこの作家のスタイル、あまり好きにはなれない。