又吉栄喜

豚の報い 海の微睡み    

豚の報い 2005年5月25日(水)
 スナックに豚が飛び込んできて、付きまとわれたホステスがマブイ(魂)おとしたという。沖縄のユタと呼ばれる霊能者に関心のある学生の正吉は、御嶽(ウタキ) へ行って御願(ウガン)するしかないと言ってしまい、故郷の真謝島へママと二人のホステスを連れて帰ることになった。実は、正吉には風葬された父の遺骨を拾って墓へ戻すという目的もあった。沖縄文学というと、沖縄戦とか基地とかがテーマになりそうだが、これは沖縄の土俗的な信仰を背景に、沖縄の女の悲しくてたくましい生活をユーモラスに描いたもの。芥川賞受賞作。
 もう一つ「背中の夾竹桃」はベトナム戦争当時に戻って、朝鮮戦争で戦死したアメリカ軍人を父に持ち、見かけは白人の美女というミチコと、ベトナム行きが決まった若いGIとの恋愛を描いていて、こちらはクールな作品。

海の微睡み 2008年7月12日(土)
 原田健太は、宮崎出身だが、琉球大学受験を機に、受験には失敗したものの沖縄に住み続けている。クレーンの資格を取り、具志島と留久島の架橋工事で働いている。健太は、具志島の桟橋から沖合の工事現場へ向かう送迎船で、待合室から自分を見ている女の姿が気になり、何日か具志島で女を探し歩いたりしていた。ある土曜日の休日、留久島へ釣りに出かけると、釣りをしている若い女と出会った。女は西江美華、二十歳で、桟橋の近くでスナック「ミカちゃん」をやっていた。美華は、ウチナーンチュとして島にこだわり、先祖を大事にし、ハブを殺し、魚をとる女だった。健太は美華に惹かれていくが、上司の矢口も美華に入れ込むようになる。健太は、仕事を辞めて、「ミカちゃん」でバーテンをやろうと、留久島へやってくる。
 美華はすごく魅力的に描かれているが、対照的に健太は、本能と自意識のおもむくままの浅薄で衝動的でくだらない男だ。ウチナンチューを美化して、ヤマトンチューを嘲笑しているだけという感じがする。どこか物足りない。