牧野信一

バラルダ物語      

バラルダ物語 2003年8月25日(月)
 大正から昭和にかけて活動した作家で、20代の頃は父母を描いた私小説、30代になって幻想的な作品を書き始めたそうである。
 この作品集は、その幻想的な短編をまとめたものである。ほぼどの作品も、作者の故郷である小田原やその周辺の村で情けない居候生活をおくる様子を描いたものだ。「西部劇通信」とか「バラルダ物語」では、周囲の人物をユーモラスに誇張したり、西洋のベールをかぶせたりして、風変わりで躍動的なモダニズム風の独自の世界を作り上げている。「月明かり」とか「鬼涙村」といった後期の作品では、ユーモラスというよりは村の土俗的な世界の異様さのほうがより強く感じられ、同時に主人公の自己嫌悪が表出されるようになる。
 より若い世代の小林秀雄や河上徹太郎に支持され、新人の井伏鱒二や坂口安吾を最初に評価したのだそうだ。坂口安吾や石川淳につながっていく流れの原点なのかもしれない。昭和11年、39歳で自殺している。