舞城王太郎

煙か土か食い物 阿修羅ガール 好き好き大好き超愛してる。  

煙か土か食い物 2005年1月18日(火)
 奈津川四郎は、サンディエゴの病院のERに勤める外科医。母が頭に怪我をして集中治療室に入っているという連絡を受けて、白衣のまま飛行機で故郷の福井県西暁町へ帰る。話を聞くと、主婦の頭を殴って重傷を負わせ、家の前の地面に生き埋めにするという奇怪な連続暴行事件だった。天才的なひらめきで四郎は次々と事件の核心に迫っていく。
 この小説は、権力と暴力にまみれた奈津川家の物語とミステリーの二重構造になっていて、事件の解決は同時に家族の憎悪の終わりでもある。ストーリー自体おもしろかった が、この作家の最大の魅力はスーパーリアル口語体といった感じの爆裂するような言葉だろう。メフィスト賞受賞作。

阿修羅ガール 2005年11月10日(木)
 女子高生アイコは、好きでもない佐野とセックスして、むかついてケリを入れて帰ると、翌日クラスで仲間のシメにあい、逆に中心のマキをボコボコにいためる。佐野が誘拐されて切られた足の指が送られてきたのだという。翌日、アイコが片思いをする陽治が佐野の行方を捜してたずねてくる。
 街では犬猫を殺し、ついに三つ子をバラバラ殺人したグルグル魔人事件が起こり、犯人は中学生に違いないと決め付けた《天の声》がアルマゲドンという中坊狩りを呼びかけている。そしてチャイムが鳴って玄関をあけると、そこには金槌を持ったマキが・・・。
 第二部では、三途の川で陽治に受け入れらないと知ったアイコは魔界をさまよい、メルヘンの国で子供をばらばらにしてしまう怪物に飲み込まれ、グルグル魔人に乗り移ってしまう。
 とストーリーを並べてみても、何も伝わらない。 やはり、暴力的な口語体に作品の価値の大部分があるようだ。ただ、第三部では、子供を殺され夫も自殺した沙耶香さんと付き添う陽治、アイコとアイコの魂を取り戻した占い師の桜月淡雪の4人で、お寺の阿修羅像をめぐって、みょうに落ち着いてしまうのが何か唐突な感じ。「私の中の、ホトケ様を見習って、深い深い、忍耐強〜い慈悲の心を持ってして、許そうと思う。愛そうと思う。」「私は一応この世界でこんな風にこの私として生きてくの。」

好き好き大好き超愛してる。 2008年7月30日(水)
 作家である《僕》は癌に侵された恋人柿緒の病室で一日過ごし、小説を書いていた。柿緒が亡くなって、「愛してる」とは言ったけど、「死なないでくれ」と言うのを忘れてしまっていた。無駄でも言うべきだった。「無駄と知りながらも言うべき言葉は一つの祈りだ。」
 柿緒が生きていた頃の二人の日々、柿緒が亡くなった後の《僕》の柿緒への思い、恋愛と小説への思いが語られる。その間に、ASMAという虫にむしばまれた女性と看病する《僕》の物語(智依子)、夢の中で好きになった女の子を探し求める物語(佐々木妙子)、イヴになった少女のろっ骨をアダムとなった男性が操って神と闘わせる物語(ニオモ)が挿入される。いずれも、柿緒の闘病と死を連想させるような物語で、作家である《僕》が書いた劇中劇のようにも思える。
 小説論は別として、柿緒が百年送る手紙とか、一日だけ秘密を作ると言ったエピソードはしんみりさせるものがあった。数年前の芥川賞候補作で、話題になった作品。