前川麻子

鞄屋の娘      

鞄屋の娘 2006年3月7日(火)
 麻子の父は大学を卒業すると帆布の鞄作りを始め、結婚し男の子が生まれるが、鞄店の売り子と付き合い始め、女の子が生まれると一緒に暮らすようになる。麻子が小学校卒業する頃にはまた別の女と家を出て行くが、仕事場へ行き父がミシンに向かう姿を見て、「だだだ」という音を聞くのが好きだった。
 父が亡くなると麻子は定時制高校に入り、中退してふとしたきっかけからスタイリストの道に入る。妻子持ちの写真家の高木、そのアシスタントの濱田と付き合い、子供ができて、スタイリスト先輩ユキコを加えた擬似家族を始め、ミシンを買って父と同じように鞄を作り始める。
 父の死、母の死、高木の死、ユキコの発病といった重いエピソードが続くが、麻子はただ淡々と生きていくだけだ。物語も最後は落ち着いていくのだが、ラストの仕掛けが少し重い感じがする。小説新潮長編新人賞受賞作。