前田司郎

愛でもない青春でもない旅立たない 夏の水の半魚人    

愛でもない青春でもない旅立たない 2010年1月16日(土)
 僕は東京のはずれにある大学の大学生。最近講義で一緒になった山本、本宮ユキと三人でいることが多い。山本は本宮ユキを狙っているらしいが、本宮は僕を好き何だと思う。恋人のまなみと付き合うのは、「隊長、自分がやるであります!」というより「自分がでありますか?」に変わってきた。バイトもフェードアウトしたい。
 その場その場を自分の都合のいいように、かといってあえて逆らいもせずしのいでいる。結局、本宮ユキとできてしまって、ばれたのかどうかわからないが、まゆみに別れを告げられ、ひきこもってしまうことになるのだが…。
 思いつきをそのまま文章にしたようなゆるくて軽い超口語文体はおもしろい。夢のエピソードや最後のシーンは、シュールに見せるためにとってつけたような感じで、全体と適合しているとは思えない。いろんなエピソードやシーンはおもしろいけど。三島由紀夫賞受賞作家のデビュー作。
 「僕は変わる。僕を貫いている確固たるものはなんだ。刹那刹那の僕を数珠のようにつなぐ糸はなんだ。…単に数珠をつないでいた糸がぶつぶつと切れて、刹那刹那の僕がころころと分離したにすぎないのかもしれない、いやもとから数珠をつなぐ糸などないのだ。きっと。」

夏の水の半魚人 2013年7月21日( 日)
 魚彦という僕の変な名前はお母さんの初恋のハマチからとったという。5年生になって、お母さんが軽く狂っているということが分かってきた。それでも、誕生日会には女子も何人か来てくれた。海子とは、写生会の時森の中で秘密を見てから気まずくなっていた。車椅子の今田とは、ガラスの破片を集めて人形を作っている。魔法使いに教えられたのだという。僕らは御殿山の公園で遊んだり、品川神社のお祭りに出かけたりする。
 鬼ごっことかドロケイとか子供っぽい遊びをそろそろ卒業する頃。魔法使いの話をする今田にはなぜか苛立ってしまう。「ちびまる子ちゃん」の話題が出てくるから、時代は1990年頃。ラストが印象的だ。三島由紀夫賞受賞作。