町屋良平

1R1分34秒      

1R1分34秒 2022年11月1日 (火)
 ぼくはプロボクサー。デビュー戦を初回KOで飾ったものの、その後は二敗一分。試合が決まるとビデオで対戦相手を研究し、SNSをチェックしているうちいつの間にか親友になってしまうが、対戦すれば裏切られてしまう。トレーナーに見捨てられたのか、ジムの先輩ウメキチのコーチを受けることになる。一人だけの友人から時々美術展に誘われ、趣味で映画を撮っている彼は、会うといつもiPhoneを向けて撮影し、インタビューする。次の試合まで、そんな毎日が続く。
 トレーナーに「考えすぎ」と言われるように、このボクサーはあれこれ思索する。「なるべく考えない。考えないように送る人生は、幸福か?幸福なんて好きじゃない。…ぼくはまだ二十一だけど、人生のことを考えるのにすごく飽きていた。社会や政治が心の底からどうでもいい。」
 ボクシング小説で芥川賞?と疑問に思ったが、確かにその価値はありそうだ。「ポンコツボクサーの成長を描く、圧巻の青春小説」と帯にあったが、いい加減なものだ。実際は非常に興味深い作品だった。